町工場と製造業を再構築するベンチャー・CADDi 加藤勇志郎氏インタビュー

社内の業務風景

「買い叩くというと聞こえが悪いのですが、クライアントは利益が出なくなるので『全体で下げてよ』と交渉するしかなくなる。結果、町工場の75%が赤字になっているとのデータもあります。大量生産の時代に構築された『お客さん中心の下請け構造』は、多品種少量生産の時代にはネガティブ。そこで、特定のモノづくりに強みを持つ町工場が得意な分野を掘り下げることができ、同時に調達側の利益も高めうる仕組みが必要だと考えました」

キャディは顧客である町工場の原価計算の方法をすべてヒアリング。メーカーなど発注側から依頼があれば、強みを持った町工場からの見積もりを即座に提出する。町工場側は不要な見積書をつくる業務から解放される上に黒字で受注することができ、メーカー側も自分たちで発注を行うより2~3割も安く調達を行うことができる。時代に即した製造業の受発注関係をプロモーションする魔法のようなITソリューションだ。

「価格交渉や見積もりから解放されるという側面もそうですが、町工場にとって、自分たちに得意な発注しかこないというのは最大のメリットだと思います。板金と一言でいえども、数百の加工種類に分けられている。そのうち、1カテゴリーだけでも強ければ仕事がくる仕組みなのです。実際のところ、我々のサービスが日本の製造業全体の衰退を止められるかどうかは未知数。それでも、少なくとも残るべき企業が残ることはサポートできると考えています。残るべき企業の定義は、ひとつのカテゴリーでもいいので強みがある会社。競争力がある企業がなくなるのは非常にもったいない。産業全体にとってもマイナスですからね」

多品種少量生産が求められる現在の日本の製造業界において、翌月の売上を予測できる町工場は1割にも満たないのではないかと加藤氏は指摘する。例えば、中国の大規模工場であれば、大手メーカーの発注で5年後まで売り上げが読めるというようなこともあろう。一方で日本の町工場には「2週間後までに頼む」というような案件が、突然、一気に降って湧いてくることが常態化している。それがいつ来るか、どのような商品を求められるかもわからないというのだ。加藤氏はキャディのサービスを通じて、町工場の経営に安定した収益基盤を提供できると考えている。

「キャディが毎月の売上の3~4割に相当する案件を安定的に供給できれば、経営者の心理的安全性も確保できますし、残りの6割をどうするか、新たにチャレンジしてもらえる時間や余裕をも生みだせると考えています。その延長線上で業界全体も活性化していき、黒字でサステナブルな構造が生めるのではないかなと」

町工場からすると、クライアントからの受注は“経営そのもの”だと加藤氏。安定的に利益を確保できれば、設備投資を増やしたり、人員を増員することもできる。実際、キャディのサービスを利用している町工場のなかには、「数十年ぶりに社員を雇った」という企業もあるそうだ。加藤氏はそのような話が何よりも喜びであり、誇りであるという。

一方で、加藤氏はキャディのサービスを通じてクライアント企業の調達関係者の負担も軽減できると話す。というのも、部品を調達するクライアント企業の多くも中小企業であり、お菓子を袋に詰める機械や、大手ECサイトの商品をラッピングする機械、クリーニング用の包装機械など、さまざまな用途の産業機械を作るにあたって、調達担当者はひとりで毎日、何百もの図面を加工可能かつコストの合う調達先に振り分ける作業に追われている。しかし受発注の時間やコストを削減でき、かつ納品される部品の品質がアップするとなれば、設計など付加価値を出すための作業に時間を割けるようになるというわけだ。

「クライアント企業も20~30名の中小企業が中心なのですが、キャディの理念に共感してくれる方々も多くいらっしゃいます。というのも、調達する側の方々も町工場の部品を買い叩きたいわけでは決してない。処理しなければならない図面がたくさんあり、経営側からは安く買うよう指示され、製造サイドからは品質や納期を求められる。板挟みのなかで、下請け先に価格交渉せざるをえないんです。ただ本音としては、自分たちが頼んだものを嫌な思いをして作ってほしくないと考えている。キャディの場合、高品質な部品の納品が可能で、かつ町工場側も黒字だということを認知してもらっているので、気持ちよく発注できるとの声をいただいています」

加藤氏は、「町工場」という言葉はキャッチーでメディアにも取り上げられやすい反面、調達側の苦労はあまりフォーカスされないと話す。ただ、調達という仕事は製造業の経営にとって生命線であり、縁の下の力持ち。その調達と町工場がWin-Winになれるサービスであるという点もキャディに支持が集まる理由だ。

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。