町工場と製造業を再構築するベンチャー・CADDi 加藤勇志郎氏インタビュー

日本の製造業は約180兆円、そのうち部品調達は約120兆円におよぶ巨大な市場だ。加藤氏は受発注の改善という現場のニーズに即したサービスをコアに据え、今後さまざまな方向で事業を展開していきたいとする。例えば、町工場の生産工程をIT化する事業だ。

「町工場では発注書が壁に貼ってあるなど、生産工程の9割が紙で管理されています。そのため、案件を忘れてしまったりというようなミスが少なくありません。それをウェブで管理できるようになれば、効率やミスを改善していけるはずです。キャディにとっても、町工場の機械がいつ空いているかが瞬時に把握でき、案件も出しやすくなる。町工場の遊休資産を一瞬で埋めて、納期遅延率などを改善していくことができるのです。既存の生産管理ソフトなどを導入しようとすると、最低1,000万円はかかりますが、弊社としては受発注というビジネスを中心に据えているので、その生産管理のIT化に関しては低コストでサービスを提供できると考えています」

加藤氏はまた、キャディが受発注のプラットフォームとして成長することで、町工場の材料調達のコストダウン、資金調達などファイナンス面にも力を発揮できるはずだと話す。さらに、部品調達の最適化はアジアや欧米でも需要があると踏んでいる。

「私は前職で中国、米国、オランダにおける調達の支援にも従事していましたが、日本の製造業には大きな可能性があると考えています。すべてそうというわけではないですが、大体において、コスト感で言えば米国は日本の2~3倍ほど高いものもある一方で、品質は日本の方が良い、というケースが多い。ただし、日本の中小企業が米国にモノを売れるかというと、非常に難しい。日本の町工場で米国に支社を持っている企業は0.1%にも満たないのではないでしょうか。それでも、モノづくりは非常にわかりやすい分野でもあります。質が良くて安ければ、認められる。横展開しやすいポテンシャルを秘めた領域なのです。海外各国内だけでも部品調達の最適化は可能ですが、私どもとしては、さらに日本の町工場を世界とつなぐようなプラットフォームを生み出していきたい」

加藤氏は取材中、「もったいない」という言葉を何度も使った。そこには、ネガティブな意味合いは決して含まれていない。必要とされるべき企業、そして人々が、環境要因に左右されず、世の中に正しく評価されるべき仕組みが重要だと言うのだ。もったいない、すなわち人が持つ能力や力を最大限に活かすこと――。それが、加藤氏とキャディという企業を通底するビジネス哲学だ。

「私自身は、特定の個人の得意な能力を最大限に伸ばしてあげることが、本人にとっても、企業にとっても、社会にとっても良いことだと考えています。高校生の頃、私はインディーズのレコード会社で活動していました。高田馬場が主な活動の場所だったのですが、20代の先輩たちのなかには、売れていないのに驚くほどうまい人もいました。私もその人たちの音楽がとても好きで、今でもCDを買っているほどなのですが、そういう才能を持った人たちがみな、音楽だけでは稼げないからとコンビニなどでアルバイトをやっていて、途中でつらくなり辞めてしまう。では高田馬場に限定されず、さらに広い世界に彼の歌を届けることができたらどうか。おそらく、音楽だけで食べていける人も少なくなくなかったはずです。人から評価されるべき能力を持っているのに、つぶれていく。そういう状況は、製造業だけでなく世の中にたくさんあります。そんな負の状況をひとつずつ解決していきたい」

製造業の改革に取り組むキャディには、建設業界や不動産業界、SIer業界などからも相談が来ることもあるという。日の目を見ることがない“もったいない可能性”を解放したいと考える業界は日本にとても多いのだ。キャディのオフィスに立ち入った時のあの雰囲気の正体は、現場の人々と接しているからこそ得られる人間や社会に対するポジティブな視点、そして情熱や愛だったのではないかと思えてならない。

■写真提供:キャディ株式会社

※本記事はファーウェイ・ジャパンのデジタルオウンドメディア「HUAWAVE」掲載の「『もったいない能力」を解放する 町工場と企業をつなぎ日本の製造業を活性化するベンチャー・キャディ(CADDi)」を加筆・再編集したものです。

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。