ドローンオペレーター・十田一秀氏に聞く空撮・測量のメリットと課題

ロボティア編集部2015年12月16日(水曜日)

 ドローンが普及しはじめ、ビジネスにおいても幅広く活用されようとしている昨今。しかし、実際に現場でどう使われているかという現状はあまり詳しく報じられていない。そこで、ロボティア編集部ではドローンを業務に導入している企業に取材。今回はドローンを使った空撮および写真測量を業務とするKELEK代表・十田一秀氏に、実際にビジネスを展開する上でのメリットや課題について話を聞いた。

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―KELEKではドローンを使った空撮および航空測量を業務にしていると伺いました。ドローンを使ったビジネスに携わるようになったきっかけからお聞かせください。

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 もともと私の父が、ラジコンヘリで空撮をする会社を経営していました。クライアントからは主に埋蔵文化財の発掘調査などを請け負っていたのですが、航空写真を使った写真測量も業務ポートフォリオに加えたいという社内の方針がありまして。そこで、写真測量ソフトを導入して、実際に業務として展開しはじめました。そこにきて、ここ数年、ドローン(本来シングルローターヘリもドローンに含まれるが、ここでは分かりやすくマルチコプターのことをドローンと呼ぶ)が販売されるようになりました。

 従来使っていたシングルローターヘリより使い勝手がよいため、現在ではドローンを使ったビジネスに移行することに。業務としては測量コンサルタント企業から依頼をいただいたり、自治体や役所方面からの受注があります。また埋蔵文化財関連の仕事は引き続き行っており、そちらは発掘調査会社の方から依頼をいただいています。最近ではTV番組の収録や報道資料の撮影、CM撮影などにもご協力させていただいております。

―ドローンを使った撮影業務の頻度はどのくらいでしょうか?

 実際にドローンを飛ばす日数は週に3~4日ですね。測量のみの場合や、プラスアルファで空撮をすることもありますし、反対に空撮だけの案件もあります。ここ数年、写真測量ソフトの品質が急激に向上したため、写真をたくさん撮影しても、自動的に3次元モデルを生成することができます。ドローンとの組み合わせで、空から撮影もしくは測量するという案件は増えていると思います。

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―測量業務でドローンを使うメリットは?

 まずは、多くの場合、コストを削減できるというメリットがあるかと思います。特に大きい敷地に対して、時間かけずに測量を行おうとした場合ですね。

 以前、一度計算したことがあるのですが、例えば2km×500メートルの河川を調査した場合、トータルステーションなど測量機器を使って測量するとなるとスタッフを3人投入して3日くらいかかると。大体、1日の人件費が約30万円で3日かかるので、合計で90万円ほどの予算がかかる計算になります。ドローンを飛ばした場合は1日で25万、処理費で25万円くらいかかるとしても、50万円程度で済んでしまう。

 逆に1日で完了してしまうくらいの敷地でしたら、人間が作業した方がコストが安くなる場合もあります。ケースバイケースですね。橋脚の上に人が登る必要がある案件などでは、足場を作る費用も削減できると思います。

 精度的には、トータルステーションで測量すると標高値しか出せない上に、計測するポイント自体が少なくなる。ポイントの数は1日1500点、3日で5000点くらいが目安になります。一方、写真測量だと測量ソフトやオルソ画像などを駆使したりして、かなり詳細にデータを取ることができます。ポイントの数も数千万点取れるのではないでしょうか。

 案件によって変わると思いますが精度は確保できると思います。本来であれば、レーザーを使った測量がもっとも精度が高いのですが、ドローンとレーザーを組み合わせた測量技術はまだ研究中だと聞いています。

崩落
photo by 赤穂民報

 もうひとつのメリットとしては、作業者の安全を確保できるという点、また人が立ち入れない場所でも撮影することができるということでしょうか。実際、人が立ち入れない状況ではドローンの需要が高いです。例えば、測量コンサルタントさんの方で、崩壊している山道などの改修案などを相手先に提案するような時の状況調査の用途ですね。それらの案件を調査する際には、ドローンを使った測量や空撮が有効だと思います。前年度と比較して、石がどれくらい落ちてきているかなど差分も確認できますから。

 こちらも正面に行ってレーザー測量ができればよいのですが、崖のような場所だと定点が取れないのでできません。そのような場合にもやはりドローンが有効ですね。これまでは人が登ってスケッチしたり、写真を撮ったり。それでも、それほど効果的に測量することは難しかったようです。航空レーザーで撮影してしまう場合もあったそうなのですが、すると逆に詳細が分からなくなるというデメリットがありました。

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―12月10日にドローン利用を視野に入れた航空法の改正が行われました。ビジネスでドローンを使うにはしっかりと規制をクリアしなければならないと思うのですが、現場ではどのような用意をされるのですか?

 これまでドローンに関するガイドラインが実質上なかったので、巷では航空法さえ順守すればよい状況でした。そのためか、報道では墜落の事例ばっかり報じられていましたよね。
 私どもの方ではこれまで、私有地や許可を取った場所だけを対象に業務を行ってきました。敷地から出ると問題やトラブルになりますので。

 一度、建設前にマンションの階層ごとの写真を撮影して、見え方を確認するという案件があったのですが、その場合は近隣さんにお声掛けしたりビラをまいたりしました。

無人飛行の承認

 12月10日には航空法が改正され、国交省の許可が必要になりました。今後は撮りたい場所でしっかりと許可取って、国交省に通知した上での撮影になるかと思います。第三者の敷地を飛ぶ場合は権利者の許可を取り、裏付けとなる承認資料なども提出するような形だと思います。最終的に事業者と機体にそれぞれ認可番号が付与され、その番号を添付して現場ごとに承認を受けることになると思います。

 ドローンを商業的に利用するという観点からは、今回の法改正はかなり縛りが厳しいという評価が多いですが、個人的にはきっちり規制が整備された方がよいという印象を抱いています。関連業者が何も知らずに飛ばして、墜落事故が起き、最悪、死傷者などが出てしまえば、ドローンを使ったビジネス自体が禁止になってしま恐れがある。少し厳しいくらいが産業全体にとってよいと思います。また新たに申請書を作る過程は、企業側の飛行マニュアルなどを整備するきっかけにもなると思いますよ。

 ただ11月17日に発表されて、12月10日に一斉に認可が必要となると、時間が少なかったという印象も(笑)。弊社でも12月10日にやりたかった案件に間に合いませんでした。

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―実際にドローンを操縦する際には完全に自律飛行を行うのでしょうか。また、操縦のためのトレーニングにはどれくらい時間がかかるものなのでしょうか。

 現在、オペレーティングや操縦については半自動です。プロポである程度操縦して、途中からパソコンやタブレットで通信しています。軌道を設定すれば、後はドローンが自動で飛んでタスクを処理するような形です。特に離着陸は手動でやることが多いですね。周囲の環境は常に異なるので、すべて自動化するというのはなかなか難しいかと。

 トレーニングに関しては、もともとシングルモーターヘリの操縦をしていたので、それほど難しいとは感じませんでした。国交省では、マニュアルに沿った10時間ほどのトレーニングを義務付けています。体感的には、それくらい練習すれば操縦はできると思います。現在のドローンは風速が7mくらいあっても定点で制止してくれますし、技術的にもどんどん良くなっていますので。

―もしよろしければ、業務で使っている機体を教えてください。

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Freefly-ALTA1 photo by cinema5d.com

 弊社では主にFreefly社製のドローンを使用しています。Freeflyは米国・シアトルの企業で、機体はALTAというプロの映像系の方たちが多く使っているものです。NHKさんにも導入されています。

 現在、市場ではDJIのフライトコントローラー使っている製品が7割くらいだと聞いています。もしくは3Dロボティクス社製ですね。弊社ではDJI製品も保有しているのですが、初期不良のせいかテストで何度か墜落したことがありました。知人の方でも同じようなトラブルがあったと聞いていたため、業務で使うには不安が残った。そのため前者を主に使用しています。

 Freefly製品は価格が少し上がるのですが、メンテナンスもフリーですし業務用としては信頼性が高いかなと。こちらで行ったテストでも非常に安定しています。

KELEK十田一秀氏ドローン撮影

―シングルローターヘリでの撮影はまだ続けてらっしゃるのですか

 最近では、ほとんどシングルローターは使っていません。一番気になるのは、シングルローターヘリのフライトコントローラー(飛行安定装置)のアップデート。DJI以外、シングルローターのフライトコントローラーをほとんどやっていないですし、そのDJIも2年前からアップデートしていません。

 一方で、マルチコプターは研究開発が進んでいるのでアップデートも進められている。ほぼほぼスペック的には同じことができると思うのですが、差があるとすればそこでしょうか。今後、マルチコプターの方は機能も増えていくでしょうし、メンテナンスもメーカーが体制を整えていくのでは。私たちも業務ではマルチコプターにシフトしていくかと思います。

―ちなみに、撮影や測量の価格はどのくらいになるのでしょうか?

 規模にもよりますが、撮影については15万円、計測については30万円程度から予算を考えていただければ。

―ありがとうございます。

(取材・文 河 鐘基)