アルファゴショック後の韓国でAI開発が本格化か

ロボティア編集部2016年3月20日(日曜日)

 囲碁世界王者イ・セドル9段が人工知能に敗北した“アルファゴ(碁=alphaGo)ショック”以降、韓国では政府および民間企業による、人工知能開発および 知能情報技術研究に対する取り組みが加速しつつある。

 3月17日、韓国政府は大統領が主宰する「科学技術戦略会議」を新設するとした。同会議には民間専門家や関係部署の公務員が参加。科学技術に関する政策と事業部署間の異見がある際に、トップダウン方式で戦略を作る調停役を果たすことになる。

 現在、韓国には科学関連の政策に対してコントロールタワーの役割を果たす国家科学技術審議会や、特定懸案がある際に大統領に助言する科学技術諮問会議などがあるが、科学技術戦略会議はそれらの機関とは異なり、仲裁と異見調整を主な業務に据えるとみられている。中央日報は、科学技術戦略会議に対する朴槿恵大統領のコメントを、次のように伝えている。

「R&D(研究開発)投資の生産性を画期的に高めるために科学技術戦略会議を新設するつもりだ(中略)『アルファ碁ショック』を機に、さらに遅くなる前に、人工知能開発の重要性について大きな警戒心と刺激を受けたことが逆にとても幸運だった」(朴大統領)

 また同日、韓国・未来創造科学部はサムスン電子・LGエレクトロニクス・SKテレコム・KT・ネイバー・ヒュンダイ自動車などトップ企業がともに「知能情報技術研究所」を設立すると発表した。なお、知能情報技術という言葉は人工知能よりも広義の概念であり、AIソフトウェアやビッグデータ、IoT、クラウドなどを複合した技術を指す。

 知能情報技術研究所に参加する企業は、今後約2億8700万円ずつ、計17億2200万円(180億ウォン)を出資する。それぞれの企業が持つ研究開発能力と、保有するデータを1カ所に結集させ、研究の効率化を図る狙いだ。ただ、競合関係にあるそれらの企業が、どの程度まで保有データと研究成果を共有するかは不明となっている。

グリーンファクトリー
photo by NAVER

 科学技術戦略会議および知能情報技術研究所の設立発表の翌日である3月18日には、未来創造科学部と情報通信技術振興センターが、京畿道城南市盆唐区にあるネイバー本社オフィス・グリーンファクトリーで「第7回ICT政策会議」を開催した。同会議には知能情報技術研究所に参加を表明している上記の企業および、関連研究所、学界専門家などが参加した。

 その会議の席で、サムスン電子および韓国電子通信研究院(ETRI)関係者は「グーグルなどのグローバル企業との競争するために、学習に必要な良質のデータの確保することが重要だ」と指摘した。

 一方、LGエレクトロニクスの関係者は「言語や地図など、企業が確保しにくいデータを知能情報技術研究所を通じて取得できれば、投資の重複を避けることができる」という意見を出した。また、Googleやフェイスブックなどが持っていない「スモールデータ」を活用すれば、データ分野の競争力を高めることができるとも指摘した。スモールデータとは、個人趣向性や必要性、健康状態、生活様式などに特化した情報を指す。

 SKテレコム関係者は「最終的にデータが重要。顧客が自発的にデータを開示することができる雰囲気を造成するためには、社会的信頼(Social trust)が土台とならなければならない」と主張した。情報通信政策研究院(KISDI)は、その指摘と関連し、「個人情報の確保はセンシティブな問題となりうるので、コンピューター間で生成されるデータなど、他の方法で収集可能なデータを活用する案を検討する必要がある」という意見を出した。

 ネイバー関係者は「公共データの場合、様々な分野で活用度が高いことが予想される。公共データの品質を向上させることが、生態系の構築に役立つだろう」と指摘した。KT関係者は、知能情報技術研究所と関連し「利害関係が異なる企業が参加するので、企業間の“共通分母”を引き出すための議論や作業が必要だ」と見解を示した。

 同会議では、知能情報社会への移行を控え、社会的議論を通じた合意が必要だという指摘も提起された。

 光云大学校のムン・サンヒョン教授は「ロボットや人工知能と競争するのではなく、共存することができるように、雇用問題、倫理・道徳・法律的な側面について、社会的議論や合意が必要だ」と提案した。

 蔚山科学技術院(UNIST)のソン・ミンギュ教授は、「人工知能の恐怖を解消するために、科学技術に対する人文社会的なアプローチが必要。理工系学生・エンジニアなどが、人文社会学的側面から真剣に問題に取り組むことができるよう“融合教育”が重要となる」と述べた。

 知能情報社会が到来すれば大量の仕事が消えるという懸念と関連し、KISDIは「今後の仕事の性格が変化することになる。そのために職務分析研究が重要になるだろう」と予想した。

 知能情報技術を専門的に行う人材の確保についても議論された。ネイバー関係者は「海外の優秀な人材の誘致、国内の優秀な人材の流出防止などを政府が配慮しなければならない」とし、ソルトルックス(saltlux)関係者は「企業と大学間の共同研究を通じた、持続的な人材養成が必要」という意見を出した。

 同会議を主宰した未来創造科学部のチェ・ジェユ2次官は「ICT強国であり、偉大な文化コンテンツを備えた韓国の強みを発展させれば、4次産業革命に先んじることができる(中略)現場の声を反映して政策を推進する」とした。

photo by 青瓦台記者団