alphaGoを目撃した韓国で人工知能を巡る宗教的論争が活発化

ロボティア編集部2016年4月9日(土曜日)

 alphaGo(アルファゴ)と囲碁現役世界王者イ・セドル9段が対決した韓国で、人工知能に関する議論が多くの分野に飛び火している。最近、特に目立つのは神学および宗教関係者からの提言だ。ちなみに韓国は宗教大国でクリスチャンや仏教徒が多い。信仰を持つ人の数は、実に国民の半分以上を占めるとも言われている。

 4月5日には、キリスト教系の大学である長老会神学大学の「キリスト教思想と文化研究院」と「協会と社会研究部」が公開神学講座を開催。その講座の席に登壇した延世大学キム・ドンファン教授は、AIの発展は偶像崇拝をはじめとする“人間の神に対する挑戦”になりうると警告。神学的言説が形成されなければならないとした。

キム・ドンファン教授
延世大学キム・ドンファン教授 photo by newspower

 キム教授は、AIについて語る前に、20世紀から爆発的に進みはじめたテクノロジーの発展過程をまずおさえる必要があると指摘。20世紀のテクノロジーは、NBC(核核生物、化学工学)という3つのテクノロジーに代表され、21世紀には遺伝学、ナノテクノロジー、ロボット工学を意味するGNRに発展するとした。そして、21世紀=GNR時代の先端テクノロジーの総体であり最終的な目標が、AIとそれに関わるプロジェクトだとキム教授は指摘する。

「神が人間を創造したように、神の被造物である人間も自分に似た存在を作ろうとしている。そのような欲求がAIプロジェクトに現れている」(キム教授)

 キム教授は、遺伝子操作やクローン複製技術など既存のテクノロジーと、AIプロジェクトは根本的に様相が異なると指摘する。というのも、前者の場合、人間が被造物である自分たち自身の一部を使用・改変するという発想だが、AIプロジェクトは人間が自分に似た存在を再創造しようというものだからだ。加えてキム教授は、アルファゴとイ・セドル九段の対決にも言及。AIプロジェクトが「人間を越える」という最終段階に達しつつあるとした。

人工知能と宗教
photo by sciencefriday.com

 AIは膨大な量のビッグデータに基づいて自己学習を進める。そのため、最終的にどのような結論や結果を導き出すか、人間には誰も保証することができない。また最近、日本では文学コンクール「星新一賞」の1次審査を通過した短編小説が、AIによって書かれたという事実が明らかになっている。今後、感性、創造性、芸術性を持ったAIが登場する可能性もある。

 キム教授はそのような状況で、AIが自由意志や良心、道徳性まで備えることができるか真剣に議論する必要があり、最終的にAIの倫理的言説も形成されなければならないとした。また、それらの言説を形成させることができる分野は神学であり、まずはAIに対する神学的言説を準備することが必須だとした。

 続けてキム教授は、AIプロジェクトが「人間のように考える機械を作る」という領域だけでなく、それ以前から進められてきた人間を強化させようというすべてのテクノロジーを包含するもの、そして終着点だと指摘した。

「身体を強化し、体の一部を機械に置き換えても、死を無限に先送りすることはできない。その限界を越えるための方法として、(科学者たちは)有限な肉体を放棄し、精神を通じて永遠に生きる術を探すことを試みるだろう」

 言い換えれば、今後の先端テクノロジーが肉体的ではなく、“精神的に永遠の命を持つ人間”を夢見るのではないかという指摘である。つまり、AIプロジェクトが今後、不死を夢想するユートピア的発想に直結するかもしれないというものだ。

 キム教授は、そのような科学技術の危険性を指摘する。聖書では、神は人間を肉体と精神を兼備した完全な存在として創造した。その肉体を脱ぎ捨て、精神的に永遠の命を得ようとするAIプロジェクトの最終的な試みは、神に対する挑戦であるというのだ。

人工知能_神3
photo by wordstream.com

 ある意味、テクノロジーもひとつの宗教だと言っても過言ではない。シンギュラリティ(技術的特異点)の実現を提唱するレイ・カーツワイル氏の講演会などを取材した欧米のジャーナリストのひとりは「会場はまるで宗教セミナーのようだった」と回想している。AIはそんな“テクノロジー信奉者”たちの神としてあがめられる可能性や危険性を内包している。

 人工知能の開発を進める研究者や開発者たちはいたって楽観的だ。「AIは所詮、人間が作るもの」「人工知能が人間を支配したり、その存在意義を変えるといことはありえない」「人工知能はあくまで、人間の生活を良くするためにある」など信じて疑わない。ただ、これまで人間が生み出したものが人間の存在脅かしたり、その存在理由を変えてしまったというケースはごまんとある。人工知能の場合はさらに、人間以上の知能を持った存在が生まるという期待と怖れを含むため、今後も求心力や反発、そして議論は深まるしかない。

 テクノロジーが世界を変えてしまおうしている現在、他の宗教的世界観を持った人々の反発が次々と現れている。今後、AIについてどのような疑問や反発が生まれるのか。そのひとつひとつを注視する必要がありそうだ。

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