トランプ「アメリカファースト」の真の敵はロボットとAI

ロボティア編集部2017年1月30日(月曜日)

 アメリカファースト(米国第一主義)を掲げたドナルド・トランプ新大統領の圧力に対し、世界自動車メーカー大手などが米国に工場をつくると次々と宣言している。また、アップルの委託生産メーカーであるフォックスコンも、米国に工場を設立すると発表した。今後、大手製造業の“米国行き”はますます加速すると見込まれている。

 ただ、米国に製造工場が設立されたとしても、アメリカ人の雇用が大幅に増えるという保証はない。というのも、世界に広がる第4次産業革命の影響で、工場ではロボットが仕事を代替する傾向が強まっているからだ。

 最近、米メディアは製造業などの産業空洞化や、ロボットの導入など自動化が、労働市場にどのような変化を促すか分析しはじめている。発展途上国で進む「早期産業空洞化(premature deindustrialization)」現象も注目を受けはじめている。早期産業空洞化は、ハーバード大学のダニー・ロドリク(Dani Rodrik)教授が提唱した概念。発展途上国は、工業化に積極的に乗り出しているが、国家経済で製造業が占める割合が所定の水準にとどまったり、むしろ低くなる現象をいう。

 これまで、工業化は労働者の生活の質を高める役割を果たした。第二次世界大戦後、工業化により産業の生産性が高まり、米国の中産階級は賃金が上昇した。ただし、当時はロボットによる自動化は産業全体として拡散せず、自動車産業などごく一部の産業に限定された。ロボットが担う労働も、単純な作業にとどまった。そのため、自動化で仕事がなくなるということはなかった。むしろ労働者は、生産性の上昇効果の恩恵を得ることができた。

 ただ最近、発展途上国ではロボット導入による自動化が、作業を代替するのではなく、労働者を代替し始めている。もはや過去の工業化モデルはそこにない。国連は発展途上国の3分2に達する雇用が危機に置かれていると警告。これは、工業化が労働者の生活の質を高めるのではなく、むしろ雇用を脅かしているという分析だ。

 これまで単純な作業に動員されてきたロボットは、より複雑なタスクを処理できるように進化している。さらに、ロボットの価格は下落傾向にある。投資回収期間がますます短くなっていることは、いうまでもない。

 ドイツのロボットメーカー「クカAG」によると、産業用ロボットの1時間あたりのコストは5ユーロ(約615円)である。一方、ドイツと中国の製造業労働者の時給は、それぞれ50ユーロ(6155円)、10ユーロ(1231円)である。メーカーの立場からすれば、ロボットを導入する方が得である。

 なお、中国のメーカーが溶接ロボット導入すれば、2年以内に投資を回収することができるといわれている。中国は現在、世界最大の産業用ロボットの需要があり、今後も導入が進むと見られている。人件費の上昇および労働者の高齢化は、自動化をさらに推し進めるとも予測されている。

 すでに、多くの発展途上国では製造業の雇用は頂点を過ぎた。さらに、ロボットは、より複雑な業務に投入されており、サービス業にまで拡大傾向にある。そのため、ロボットの導入により仕事を失うことになる人々を支援し、社会的なセーフティーネットの構築を急ぎ、基本的な収入を確保できるようにすべきという意見が出ている。

 ドイツテレコムやシーメンスのCEOたちは最近、テクノロジーによって置き換えられてしまう労働者を支援するために、ベーシックインカム制度導入の必要性に共感を示してもいる。ロボット導入による自動化に積極的な産業界のリーダーたちでさえ、自動化とデジタル化が社会全体に悪影響を及ぼさないか懸念しはじめている。

 現在、ドナルド・トランプ大統領は世界中の大企業を米国に引き込むことに必死だが、彼の目標は達成されるだろうか。最近、工場で起きている事実を踏まえるのであれば、米国の生産工場は高賃金労働者を雇用するよりも、ロボットおよび自動化システムの導入に熱を上げる可能性が高い。

 もしそうなれば、トランプ新大統領がロボットや自動化を容認せず労働者の雇用を大企業に義務付ける--。そんな、シナリオもありえないとは決して言えないだろう。そしてそれは、いま社会で議論されている違法移民に対する議論、自国優先主義とはまったく異なる文脈の話となってくるはずだ。

photo by Annette Bernhardt