トランプ「アメリカファースト」の真の敵はロボットとAI

 ただ最近、発展途上国ではロボット導入による自動化が、作業を代替するのではなく、労働者を代替し始めている。もはや過去の工業化モデルはそこにない。国連は発展途上国の3分2に達する雇用が危機に置かれていると警告。これは、工業化が労働者の生活の質を高めるのではなく、むしろ雇用を脅かしているという分析だ。

 これまで単純な作業に動員されてきたロボットは、より複雑なタスクを処理できるように進化している。さらに、ロボットの価格は下落傾向にある。投資回収期間がますます短くなっていることは、いうまでもない。

 ドイツのロボットメーカー「クカAG」によると、産業用ロボットの1時間あたりのコストは5ユーロ(約615円)である。一方、ドイツと中国の製造業労働者の時給は、それぞれ50ユーロ(6155円)、10ユーロ(1231円)である。メーカーの立場からすれば、ロボットを導入する方が得である。

 なお、中国のメーカーが溶接ロボット導入すれば、2年以内に投資を回収することができるといわれている。中国は現在、世界最大の産業用ロボットの需要があり、今後も導入が進むと見られている。人件費の上昇および労働者の高齢化は、自動化をさらに推し進めるとも予測されている。

 すでに、多くの発展途上国では製造業の雇用は頂点を過ぎた。さらに、ロボットは、より複雑な業務に投入されており、サービス業にまで拡大傾向にある。そのため、ロボットの導入により仕事を失うことになる人々を支援し、社会的なセーフティーネットの構築を急ぎ、基本的な収入を確保できるようにすべきという意見が出ている。

 ドイツテレコムやシーメンスのCEOたちは最近、テクノロジーによって置き換えられてしまう労働者を支援するために、ベーシックインカム制度導入の必要性に共感を示してもいる。ロボット導入による自動化に積極的な産業界のリーダーたちでさえ、自動化とデジタル化が社会全体に悪影響を及ぼさないか懸念しはじめている。

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。