悪質クレーマーに人工知能が応対...コールセンターのストレス軽減に期待

ロボティア編集部2017年8月28日(月曜日)

 世界的に人工知能(AI)をコールセンターに導入する動きが広がり、様々な課題に解決の糸口が見え始めている。

 例えば韓国では近年、悪質なクレーム問題が深刻化している。大手百貨店やオンラインショップ、銀行などのコールセンターには、日々さまざまな問い合わせ電話がかかってくるが、なかには当然、悪質なクレームも存在する。暴言を吐いた後、担当スタッフの名前や連絡先を聞き出そうとしたり、さらにひどいケースとしては「殺してやる」など脅迫まがいなものもあるそうだ。

 韓国では「お客様は神様」という、顧客第一主義の理念が強い企業が多い。顧客側が絶対的な“権利”を持っており、どんなに不条理なことを言われても、スタッフは反論することが許されない。長時間罵られようが、どんなに誹謗中傷を受けようが、コールセンタースタッフは仕事と割り切って謝り続けなければなれないという 。

 その過酷さは離職率に明確に表れている。一般的に、18人のスタッフがいたとしたら、3年以上勤務するスタッフはわずか1人にすぎないと言われている。退職理由はもちろん「クレームによる精神的ストレス」がトップ。

 今年1月には、大手コールセンターに実習生として勤務していた19歳の女性が、悪質なクレームや過度な営業ノルマによる業務ストレスを理由に自殺する事件が発生している。

 このような背景から韓国のコールセンター各社では、人工知能導入の流れが進んでいる。クレーム対応にも人工知能が活躍しはじめており、結果、現場スタッフのストレス緩和に繋がっているという。

 2016年7月、AIA生命は、韓国保険業界としては初めて、AIのコールセンタースタッフ「AIA ON」を導入した。これはIBMの人工知能「ワトソン」をベースに、韓国語を習得したAIサービスだ。

 AIA ONはチャットタイプの「顧客相談ボット」と、問い合わせ電話に対応する「ロボテラー」に区分されている。 消費者が行う問い合わせに対しては、チャットボットがチャット形式で答える。チャットボットは24時間対応可能で、待ち時間もなしにすぐに相談することができるのが魅力となっているという。一方、電話形式のロボテラーは電話での問い合わせに対応するほか、新たに発売された保険の説明&営業も行う。

 また韓国の通信会社各社も、自社のコールセンターへのAI適用を拡大している。 KTは6月から音声を文字に変換する技術(STT)と、文字の分析(TA)技術を自社のコールセンターに適用した。 同技術を利用すれば、録音内容が自動的に文字に変換・記録され、会話の核心部分を安易にとらえることができるようになる。加えて、ユーザーの不満をカテゴリ別に分類したり、顧客感情の分析も可能となる。

 KT関係者は「弊社では国内最大規模の顧客センターとして、ディープラーニング技術によって音声認識精度を大幅に向上させることに成功した。複雑な商品体系と幅広い顧客の特性(方言、速さ、年齢など)を持った通信会社としての課題を最も敏感に汲み取り、反映することができた」と説明しており、人工知能導入による成果が大きいことを強調した。

 また、LG電子も今年からスマートフォンAS(自律システム)にディープラーニングベースのAIを導入した。これはASにAIを融合させることで、顧客オーダーメイドのサービスを拡大する試み。AIを活用し、商品の故障の事例と修理方法をデータベース化する狙いだ。

 一方で、日本ではすでにAIを活用したコールセンターが運営されている。 みずほ銀行は人工知能「ワトソン」をコールセンター業務に導入。顧客の質問に対する回答の候補を、スタッフのパソコン画面上に素早く表示する仕組みを整えている。

 また、損保ジャパン日本興亜は年間約190万件に達するといわれるコールセンター業務に人工知能を導入するプロジェクトを今年開始している。導入されたのは、NTTグループの音声認識エンジンである「VoiceRex」とAIエンジンの「corevo」。VoiceRexは音声認識精度において高い評価を得ており、人間の会話を高精度にテキスト化することができる。一方、corevoは人間の感情を理解した上での会話が可能であり、モノや周囲の環境をリアルタイムで把握して制御する。なお損保ジャパン日本興亜がこのシステムに最も期待しているのは、「顧客の待ち時間の短縮」だという。

 幅広い商品を扱う保険業界では、保険契約に関する相談から交通事故時の手続きまで、システムから規定を検索するといった作業にどうしても相応の時間がかかってしまう。月刊コールセンタージャパンが昨年行ったコールセンター利用者1200名へのアンケートによると、「不満を感じた最大の理由」は、62.9%の回答者が「待ち時間が長い」でトップだった。

 目的は違えど、世界中でコールセンターに様々な革新を起こはじめているAI。今後は、技術の向上によって、顧客の感情分析や要約技術への期待が高まっている。日本でも「待ち時間ゼロ」のコールセンターが実現する日がいずれ来るのだろうか。

Photo by Pixabay