テクノロジーで新たな顧客体験創出を目指すワトソンズ

ロボティア編集部2019年10月12日(土曜日)

2018年8月、アジア最大の医薬品・美容品の小売店・ワトソンズ(屈臣氏/Watsons) を運営するASワトソンズ・グループ(ワトソンズのほか家電量販店やスーパーなども含む)の2018年上半期の業績が、親会社である香港のCKハチソンHD(長江和記実業有限公司)によって発表された。売上高は684.74億香港ドル(約9792億円)で、昨年同時期と比べ17%増となり、EBITDA(税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益)は71.04億香港ドル(約1015億円)で10%増となった。売り上げをけん引したのはドラッグストア部門(ワトソンズの医薬品・美容品)、香港では他ブランドの売り上げも回復傾向となっているという。

なかでも目を引いたのが、中国大陸での業績回復だ。18年上半期の中国での営業売上は123.53億香港ドル(約1766億円)で、昨年比16%増。EBITDAも13%増え、それぞれ2桁の成長率を見せた。

実は2015年からASワトソンズ・グループの中国大陸での業績は落ち込んでおり、2016年の営業収入は初めてマイナス成長となっていた。業績回復の要因に関し、CKハチソンのIR資料には「中国市場において柔軟なコスト構造と独占的な商品の販売代理によって20%の粗利益を維持した。そのほとんどは美容商品の売り上げである」とある。

ASワトソンズ・グループ全体の医薬品・美容品部門における会員数(日本と同様のポイントシステムを採用したもの)は約1億3000万人を突破し、18年上半期の収益のうち、62%が会員からの売り上げであったという。また、同グループが独占的に販売を行う商品の売上額が全体売上の34%を占めていることも大きい。中国大陸のワトソンズの店舗数は約3400だが、大都市での出店は一段落し、現在は地方や内陸部の中都市・小都市に出店を拡大させている。膨大な人口を持つ内陸部での新たな消費者獲得も奏功しているようだ。

■独自の決済システム、ARメイクを続々と導入

ワトソンズは1828年に中国・広東省で「屈臣氏大藥房」の名で設立されたアジア最大の医薬品・美容品の小売店(ドラッグストア・チェーン)だ。香港、中国、台湾、マカオ、シンガポール、タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア、ロシア、トルコ、ウクライナなどに店舗を持ち、その数は約6800店(18年上半期時点、うち中国大陸は約3400店舗)。グループ全体の従業員数は約11万7000人にもなる。ワトソンズの特徴としては、店舗ごとに専門の薬剤師、栄養士、健康アドバイザー、美容アドバイザー、母子健康アドバイザー、看護師などを抱え、顧客のニーズに細かく対応しているところだろう。

Photo by ASワトソンズ・グループHP

中国のアナリストによると、ワトソンズが高い収益性を確保しているのは、以下の3つの理由があるという。すなわち、「ブランド力のある商品の販売」、「サプライチェーンにおける有利な仕入れと価格帯」、そして「主要営業業務以外からの収入」(ワトソンズが商品のサプライヤーから徴収する手続き費用、同じくサプライヤーから徴収するラックへの陳列費用、サプライヤーから徴収する商品の宣伝費用など)である。

業績が回復基調にあるワトソンズは近年、様々な新しい取り組みを行っている。まず、決済部分の取り組みを見てみよう。ASワトソンズ・グループは、5月に香港島の複合商業施設・長江センター内に傘下のワトソンズや家電、スーパーを集めた「CKC18」をオープンさせた。ここに新たに出店した「Watsons Lab」で無人レジを導入。これは電磁波を使って商品情報を非接触で読み取る次世代のタグ「RFID」(radio frequency identification)を商品につけ、買い物客は専用レジに商品を入れたカゴを置くだけで自動的に清算されるという仕組みで、日本ではアパレルのGUなどが同様の仕組みを導入している。

また、9月からワトソンズ独自の「Watsons Pay」もスタートさせている。これは専用アプリ「Watsons APP」を通じて行われる支払い方式で、2020年までに同アプリとLINEペイ(台湾ユーザー向け)で決済する顧客を600万人にまで増やすことを目標としている。無人レジや無人店舗の導入を進めるワトソンズでは、顧客の出入店管理や商品推薦、健康状態の管理、決済機能をすべてアプリ上で行うと発表しており、独自の決済方法にこだわったのだろう(同アプリ上で銀聯やWeChat Pay、AliPayの3大決済にも対応するかどうかは現時点で不明)。ちなみにワトソンズは同業他社に先駆け、2015年にいち早くWeChat Pay(微信支付)を導入。同決済を利用した顧客に必ず割引券が当たるくじ引きを行い、導入後わずか半年でWeChat上のワトソンズ会員が100万人を突破したことで話題となったこともある。

ARスマートミラーの導入を積極的に進めている点にも注目したい。ワトソンズでは100種以上の化粧品について、実際に使用した場合、どのような仕上がりになるか瞬時にミラー型モニターに映す技術を採用。台湾・パーフェクト社のARメイクアプリYouCam Makeup を使ったバーチャルメイクはまるで現実の鏡に映しているかのようなリアルな感覚で自由にさまざまな化粧品を試すことができる。国内外の多くの美容ブランドで導入が進む、注目のテクノロジーだ。ワトソンズでは2017年2月にまず上海・浦東区の店舗で導入し、その後、台湾や香港でも導入が進んでいる。

■中国物流大手やロレアル、ユニリーバとの提携が意味するもの

一方、世界最大の化粧品メーカー・ロレアルとの提携もあった。1月、ワトソンズとロレアルは中国・深センに新しいコンセプトとなる「Colorlab by Watsons」をオープンさせた。同店は従来のワトソンズのイメージカラーとは異なり、黒色と白色を基調とした店舗デザインが特徴だ。店内にはさまざまな人気ブランドの最新化粧品をARメイクなどで試すことができ、ロレアル以外にもワトソンズの独自ブランド「Makeup Miracle」「Collagen」、日本の「KATE」「KISSME」、韓国の「CLIO」、アメリカの「MAX FACTOR」、中国の「Mariedalgar」など、海外ブランドに加え中国国内の20ブランドも店頭を華々しく飾っている。ワトソンズは今後、このColorlab by Watsonsを中国大陸で50店舗まで増やすと発表している。

「Colorlab by Watsons」 Photo by ASワトソンズ・グループHP

物流改革にも注目したい。ワトソンズは1月に中国・アリババ傘下の中国の大手物流サービス・CaiNiao(菜鳥)とECモール・T-mall(天猫)とともに、即日配送サービスを開始すると発表。現在では上海、広州、深セン、杭州、東莞の5都市で注文から2時間以内に配送するサービスをすでに始めている。

CaiNiaoは2013年にアリババや銀泰集団(中国百貨店大手)、富春控股(コングロマリット)などが出資して設立され、今や1日あたり1億個の個人向け荷物を扱うまでに成長。中国全土で当日配送ネットワークの構築を目指している。中国大陸で販路拡大を進めるワトソンズにとって、短時間での配送はオンラインでの売上を大きく左右するだけに、CaiNiaoとの協業は興味深い。

一方、CaiNiao側からみれば、実はロレアルとすでに2017年から配送に関する協力関係を構築している。消費者がネットで購入したロレアルの商品がCaiNiaoの営業所に配送される仕組みで、消費者はそこで直接商品を受け取ることができるというサービスだ。先に触れたワトソンズとロレアルとの提携も、これまで両社がCaiNiaoと築いてきた物流網の“共有”も考えられる。

1億人を超える会員数を誇るワトソンズは、顧客のビッグデータを活用も始めている。ワトソンズとユニリーバは17年5月に提携を発表。ユニリーバが同ブランドを中国で販売していく上で、ワトソンズが持つビッグデータを参考に戦略的に販売していくという。ワトソンズの会員数をもとに顧客データを分析し、ブランド商品などをどこの地域で販売していくのが最適か判断していくというものだ。

まず試験的に始まったのがヘアケア商品の人気ブランド「TRESemme(トレセメ)」のプロモーションだ。ワトソンズは中国での会員30万人にトレセメの商品情報などを送り、積極的な宣伝活動を行うと同時に、有名女優を起用した同商品の宣伝活動を各地のワトソンズの店舗で行い、中国での知名度を一気に高めることに成功。今後もワトソンズは同社の持つビッグデータを活用し、海外ブランドと組んで大規模な商品・広告展開を行っていくことは間違いないだろう。ちなみにユニリーバは8月に中国EC2位でアリババのライバルであるJD.com(京東商城)と物流で提携している。

中国市場では顧客情報とIT技術を融合させたO2O(Online to Offline)やOMO (Online Merges Offline)という新しい時代に突入し、物流も無人倉庫やドローン・ロボット配送を活用しハイテク化している。ワトソンズは主戦場である中国大陸で出店を増やす一方、物流や美容ブランドとの協業を強化し、新しい時代のドラッグストアの姿をいちはやく提示しようとしている。

Photo by ASワトソンズ・グループHP

※本記事はBeautyTech.jp掲載の『ワトソンズ、新時代のドラッグストアへAR導入や独自決済などスマート化を急ぐ』を改題・再編集したものです。

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