美容関連市場が大きく成長する中国で、女性向けシェアリング化粧ボックス17Beautyが登場した。主に美容に敏感な25~35歳までの女子大学生や会社員をターゲットにしたもので、メイクアップからメイク落としまで完結できる、新しいスペース&商品貸出サービスとなっている。
運営企業は北京美时每刻科技有限公司。資本金は500万元(約8178万円)だ。女性CEOの韓淑琪(ハン・シューチ)は、自身の体験をもとに、数年前から女性のための衛生的かつ便利なシェアリングメイクボックスのアイデアを構想してきた。その後、市場の状況や課題を精査し、2018年7月に南カリフォルニア大学大学院を休学。実際に同事業を立ち上げるにいたっている。同月7月にはすでに、北京市と上海市の商業施設、地下鉄構内、空港構内などにボックスを設置完了しており、2018年内には北京、上海、広州の3都市で300台の設置を目指す計画だ。
まず、利用者はボックスの外に取り付けられている端末で、スマートフォンのQRコードを読み込みアカウント認証を行う。その後、利用時間を選択しスマートフォンで決済を済ますと、ボックス内に入ることができる。ボックス内に盗難防止用のチェーンや監視カメラが備えつけられるなど、無人コンビニ同様の防犯システムも充実している。
ボックス内に取り付けられている設備は、化粧台、椅子、全身鏡、ヘアアイロン・ドライヤー、ファンデーション、化粧水、アイシャドウ、乳液、口紅、チーク、化粧落とし、フェイススチーマーなど。中国で人気の化粧品ブランドの商品が多数取り揃えられており、ユーザーはすべて自由に利用することができる。
また、ボックス内の照明の色を変えることができユーザーは自然光やレストランやバーといった出先のシチュエーションを想定しながらメイクをすることが可能だ。さらにアロマディフューザーなども設置されており、シェアリングサービスとはいえユーザー一人ひとりに適したプライベート空間をカスタマイズできるのも、17Beautyの大きな特徴となっている。
利用終了時間が近づくと、ボックス内のリマインドシステムが作動し、自動音声でナビゲートしてくれる。利用時間は、1セット15分で金額は28元(約458円)が基本で、25分38元(約621円)、35分48元(約785円)、45分58元(約948円)となる。運営企業側が見込むのは、1日1台当たり40セットの利用だ。
17Beautyの主な収益は、このユーザーが支払う利用料に加え、ボックスにおける広告費、化粧品メーカーとのタイアップなどとされている。まだそのビジネスモデルの具体例は公開されていないが、ジバンシイ、シャネル、エスティ ローダー、SK-Ⅱ、フェンディ、NYX Professional Makeup、NARS、ディオール、メイクアップフォーエバーなど、大手化粧品ブランドとすでに提携している点を勘案すれば、各メーカーの新製品をボックスで宣伝していく用途はもちろん、共同開発アイテムや、無人ストアとしてボックス内での販売といった可能性もありそうだ。女性たちが頻繁に、そして一定時間滞在するシェア化粧ボックスとしての17Beautyというブランドが確立していけば、この空間はメディアでもあり物販もできるスペースとしての大きな可能性を秘めているといえよう。
17Beautyはショッピングモール側の集客にも一役買うことができると、韓CEOら運営チームは自信をのぞかせている。実際、中国では17Beautyに可能性を感じているショッピングモールも少なくないそうで、無料、もしくは非常に低価格でスペース契約を結ぶことができているというのが運営企業側の説明である。
17Beautyが登場した中国では、さまざまな“ボックス系ビジネス”がすでに普及しているという社会的ベースがある。有名どころで言えば「ひとりカラオケボックス」などがあるが、その他にも関連サービスの裾野は広い。
最近では、プライベートボックス「ROM」というサービスが登場している。これは商業施設などに設置されているもので、ボックスのなかにはWi-Fiやテレビ、ソファーなど置かれている。ひとりあたり1時間の利用金額は6元(約98円)。個人利用の場合、休憩や学習スペース、あるいはノマドワーク用途として、また複数人の利用の場合は飲食をしながらの交流スペースとして使われることが多いという。
また中国には、仮眠専用ボックス「5睡」なるサービスもある。中国には昼寝文化があるが、仕事や学業の合間に仮眠を取ってもらおうと登場したのが同サービスである。30分9元(約147円)から利用でき、お昼の時間帯の利用者が多いという特徴がある。
さらに、国内の健康ブームを取り込んだジムボックスサービス「PARK-BOX」も登場した。1時間10元(約163円)で利用可能で、運動不足になりがちなオフィス族の利用が目立っているという。PARK-BOXは個人に限ったスペースサービスではないものの、空間をシェアするというコンセプトにおいては、17Beautyやプライベートボックス、仮眠専用ボックスなど類似性を持つだろう。
数あるボックス系ビジネスのなかでも、メイク専用スペースとして事業展開を開始した17Beautyだが、その潜在力は非常に大きいと予想されている。中国の都市部などを中心に進出を果たし、設置台数を増やすことができれば、オフライン空間における有力な美容関連メディアとして機能していく可能性がある。利用料や広告、タイアップという各ビジネスモデルもさることながら、スマホアプリの個人認証と紐づいているということは、ビックデータを確保するためのオフライン端末&スペースしても活用できる。
中国は世界各国よりもビッグデータやAIの利活用が進んでいるが、化粧ボックスというハードウェアを通じて、女性たちの趣味・嗜好を抽出しつつ商業利用や横展開していくという流れは現実的である。費用感で比較すると、他のボックス系サービスに比べ17Beautyは割高ではあるが、価格帯でも中国の女性たちから支持を得られるか注目していきたい。
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※本記事はBeautyTech.jp掲載の「中国でおひとりさま化粧ボックス登場。『17Beauty』の全貌とその可能性」を改題・再編集したものです