日本人だけ知らない中国の人工知能ヘルスケア企業トップ5

出水鴻正2017年8月1日(火曜日)

 AI(人工知能)の分野でアメリカと並ぶ大国になりつつある中国だが、政府がいま、一番力を入れて主導しているのがヘルスケア・医療分野だ。ベンチャーも数多く、スピード感のある開発・研究が行なわれている。ヘルスケア・医療はAi分野の“大本命”ということもあり、世界中の企業が研究をしているが、中国では今、具体的にどのような研究が行われているのだろう。

 神経細胞の伝達信号の読み取りや解析能力が進むことで、歩行支援機などの装着型ロボットと呼ばれるものや、IBMが開発し話題となっている手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」がすでに実用化され、今後、ヘルスケアと最新テクノロジーの組み合わせは更なる展望が期待されている。ロボット技術は医療分野においてとくに期待されており、高度な医療ロボット及び医療の自動化技術サービス、薬物の調合や正確な医療診断をAIで実現していくという展望が挙げられる。

 中国の先端ヘルスケア大手「TINAVI(天智航医療科技)」では、手術時に医師のアシスタントとなるコンピューターによるナビゲーション技術や医療ロボットの開発を進めている。また、様々な場所にある医療機関の空き病床数の把握や遠隔医療サービスについても開発が進んでおり、「整骨医療ロボット」はすでに名が知られるようになった。

 一方、AIを利用した薬物研究は、これまで行われたデータ解析などに掛かる時間を大きく短縮すると考えられる。医療薬物に利用可能な新たな化学物質や生物の発見、新薬開発の研究時間の短縮、新薬開発に掛かるコストの削減、新薬開発の成功率を高めるなどの可能性が期待されてる。AIを使ったシミュレーション実験は、薬物の安全性や副作用を予測することが可能となる。人工知能の学習技術は、すでに心臓血管に関する投薬治療・抗悪性腫瘍薬・感染症治療薬などの分野に応用され、目覚ましい成果を上げている。例えば、エボラ出血熱に対する抗生物質の誕生には、AIが大きな役割を果たした。

 診察においてもAIの利用が中国で始まりつつある。医療知識の学習や、専門医の医療的思考・診察推察力も学ぶことで非常に正確な診断結果と治療法を導き出すことができるようになる。AIによる医療診療の実現において最も重要なポイントは、「ナレッジグラフ」と呼ばれる知識ベースだ。患者の病状をナレッジグラフに照らし合わせ、病名などを導き出していくのだが、現在はまだ技術的な難易度が高いため、開発スピードは決して早くはない。だが実現に向けて成長は続いている。

 AI診療は、医療分野で今、もっとも重要視されており、核心的なものになると期待されている。医師は常に多くの診療業務に追われているが、AIによる医療診療技術が確立されれば、簡単な診療をAIに任せ、医師はより難しい病に苦しむ患者の治療に専念することができるからだ。

 例えば北京にある「Medbanks(思派網絡科技)」は、腫瘍に関する研究を専門に行っている企業だが、ここでは人工知能による診療システムの研究開発や悪性腫瘍の治療水準を高め医師の業務効率を高めることを基本方針とした研究をすでに行っている。

 AI診療の分野ではまず画像診断が先行している。この技術はこれまで撮影された大量の診察画像データと診察データをAIに学習させ、更に神経細胞ネットワークに関する学習を促すことで、より正確な診断結果を導き出すことが期待されている。AIによる画像診断は、中国で順調に研究が進んでおり、主に「Huiyi(匯医慧影」」「医衆影像」「YiduCloud(医渡雲)」「DeepCare」「infervision(推想科技)」「12 sigma(図瑪深維)」「ASHERN TECHNOLOGY(雅森科技)」などの企業が存在する。特にDeepCare社ではAIによる画像識別技術の研究に関して、レントゲンや体内の画像情報の分析をAIに行わせ、正確な病状診断を行うことにすでに成功している。またASHERN TECHNOLOGYでは、画像診断の正確性を更に高めようと数理モデルと人工知能技術を組み合わせた新しい研究も行っている。

 最後に、AI使った健康管理はどうだろうか。「iCarbonX(碳雲知能)」では様々な顧客の健康情報を集めビッグデータ化し、そこにAI技術を組み合わせ新たな健康管理技術を研究している。また、スマホアプリ「e護士」(広州元気堂電子)は、血圧・血糖値・体脂肪率などの情報が即座に利用者が分かるよう研究が進められ、実用化が進んでいるという。また同じくスマホアプリの「DoctorMommy(博士媽咪)」(成都西禾智能科技)は、乳幼児の健康管理をAI技術で行え、子供の成長をAIが管理することで健康的に成長しているかを把握できるようになる。

 子供の健康に関しては、同じく「DIDANO(諦達諾科技)」が、子供の健康管理を科学的に行えるよう、人間の健康情報などを集約した人型AIロボットを開発し、学校などに設置する動きを見せている。何か身体に異変を感じた場合、AIロボットが症状を診て行状の分析を行うというものだ。家庭や社会における子供の健康と成長を科学的に管理するといったプラットホームを提供しているのだ。以下、注目すべき中国のAIヘルスケア企業を紹介しよう。

中国の注目すべきAIヘルスケア企業(2017年版)
(中国誌「CIWEEK」とeNET研究院の「人工知能ヘルスケア企業リストTOP50」より上位5位を抜粋)

①微泰医疗(微泰医療/MICROTECH MEDICAL)

2011年1月、浙江省にて設立。医療機器の研究開発・生産・販売を行う。主に糖尿病患者に対する血統測定機器を開発している。社長の郑攀は浙江大学修士課程を修了後、フロリダ大学博士課程で工業機械について学んだ。

②碳云智能(碳雲知能科技/iCarbonX)

2015年10月27日に深セン市で設立。人間の健康情報に関するビッグデータを有する企業でAI技術を使った健康管理について研究している。口腔・皮膚・尿・汗・血液などのビッグデータ解析を行い人間の健康管理について研究している。CEOの李英睿は1986年生まれで北京大学で生物科学を専攻。2016年の米フォーブス誌で、生命科学分野の権威ランキングにランクインしている。

③百洋智能科技(百洋智能科技/BAHEAL Pharmaceutical Group)

2005年に設立され、10のグループ企業を有する。医薬品を研究開発する企業で9000の病院と、750の薬局と取引を行っている。また近年はIBM社と共同で医療界におけるワトソン(質疑応答システム)を開発している。社長の付钢は、北京医科大学を卒業後し百洋医薬集団を設立した。現在、中国医師協会常任理事も務めている。

④熙健信息技术(熙健信息技術/mHealth)

2013年4月に南京で設立され、主に心電図機器に関する製品の研究開発を行っている。また心電図データを患者と医師の間で共有するためのスマホアプリ「掌上心電」を開発し提供している。これにより患者はスマホを使って自らの心電図データを医師に送信することができるようになる。CEOは王長津。

⑤天智航医疗科技(天智航医療科技/TINAVI)

AI技術を使った医療用ロボットの研究開発を行っている。また、AIを使った各医療機関での病室数把握や遠隔での医療サービス提供についても研究開発を行っている。CEOは、张送根で専門学校を卒業後、旧ソビエト連邦に留学しインターネット技術を学んだ。中国に帰国後は超音波機器の研究を開発していた。

Photo by icarbonx.com