ドローンとビックデータで気象情報を把握...米国で研究進む

ロボティア編集部2016年9月5日(月曜日)

 東北や北海道で甚大な被害を招いた台風10号。しかもこの週明けにかけて、再び大型台風が迫ってくるという。過去に例を見ない大型勢力の自然災害が後を絶たない。

 近年、世界的に見ても、温暖化による干ばつやとゲリラ豪雨などの異常気候が問題になっている。アメリカではハリケーンの被害減少と農業の高度化のため、気象関連のビッグデータを活用した取り組みが注目されている。

 ここ最近、アメリカで最も懸念されている自然災害は、ハリケーンである。2005年ミシシッピ州とルイジアナ州に深刻な被害を及ぼした「カトリーナ」や2012年アメリカ東部に上陸した「サンディ」はまだ記憶に新しい。ハリケーンによる経済損失額は2004年から2012年までに累計で約3000億ドル(約31兆2500億円)にも上る。

 このようなハリケーンの進路や勢力を事前に予測するために、以前からNOAA(米海洋大気庁:National Oceanic and Atmospheric Administration)を中心として、様々な研究が進められていた。 NOAAは海洋や大気に関する調査・研究をする政府機関で、多数の衛星システムを運用しながら気象情報を収集・管理している。政府機関としてはNASA(米航空宇宙局)に続いて、約20億ドル(約2083億3300万円)の宇宙予算を運用中だ。

 最近では、ハリケーンの予測は、ローカル単位で予測精度を高める傾向にある。今年8月19日にはNASAが所有した、無人偵察機「グローバルホーク」によるハリケーンの調査計画を本格始動すると発表した。今までアメリカはハリケーンに直接、有人飛行で飛び込んで観測を行ってきた。

 しかし、これは重要なデータを取得できるものの、非常に危険な命がけの観測であり、実際にハリケーンの中で、探査機の墜落事故もあったほどだ。それに比べて「グローバルホーク」は、安全かつ、NOAAの気象衛星が獲得したハリケーンの広域データと、NASAのドローンが収集した詳細な風速、湿度、気温データを組み合わせており、正確性を高めていくうえでも非常に期待されている。

ビックデータ_ハリケーン
photo by datacreators

 すでに成果も著しい。2015年に熱帯暴風雨「エリカ」が発生した際、グローバルホークで探査装置を暴風雨の中に送り確保したデータと、従来のやり方で予測したデータの精度を比較した結果、精度の向上は一目瞭然であったという。

 研究チームは、「ハリケーンの予測性能に関しては、衛星データの向上、予測モデルの高精度化、コンピューティングの高速化など、目に見える成果を得ているが、ハリケーン自体の構造と昨今急速に勢力が強まっている背景については、さらなる研究が必要である。予測精度向上が人の命と資産を守るのに役立つはずだ」と話している。

 ビックデータを活用した気象予報は、なにもハリケーンだけではない。今日、世界では気象ビッグデータ全体に対する注目度が高まっている。 アメリカ政府は気象データが活用されないことに問題意識を持ち、2014年に気候データ計画(Climate Data Initiative)を打ち出した。 その一環としてNOAAは2015年にBDP(Big Data Project)と呼ばれるプロジェクトを開始している。

 NOAAでは衛星だけでなく、航空機や気象ステーションを通じて、毎日20TB以上のデータを収集している。このような気象データに簡単にアクセスできるようにNOAAは民間大手クラウド企業であるグーグル、アマゾンウェブサービス(AWS)、IBM、マイクロソフト、オープンクラウドコンソーシアム(Open Cloud Consortium)などと連携した。 今後、連携を強化していくうえで、企業の意思決定プロセスやアプリケーション、製品、サービスを高度化することが目的だ。

 一方でビッグデータを生かす対象は農業、エネルギー、保険、公衆衛生など、さまざま。まだ一部のデータ公開が始まったばかりだが、しっかりと成果をあげている。例えば、農業用気象、収穫量、土壌などのデータを統合して農家を支援をするクリメートコーポレーション(Climate Corporation)は、BDPによるNOAAの気象データアクセスに必要な過程を簡素化した結果、作業時間を短縮し、効率化を遂げたと報告している。

 気象データを活用した取り組みは、民間企業でも注目されている。2015年にIBMが発表した、気象会社ザ・ウェザーカンパニー(The Weather Company)の買収は注目を集めた。ウェザーカンパニーは高度な気象予報のほか、航空会社各社が飛行計画を作成する際の出発地および到着地などの気象データを提供している。気象ビッグデータによるオペレーションが施行され始めた事例である。

 同様に、農業分野においても高精度の気象データの重要性が高まっている。農業用データ管理、およびデータ分析ベンチャー企業であるファームログズ(Farmlogs)は気候や土壌、作物の健康状況、農業機械の状態などのデータを自動収集して、耕地プロジェクトを策定したり、収益の見込み、農作業スケジュールの効率化などをサポートしている。

 それらの分野では、事前に被害を想定し対策を施すのが重要課題となるため、気象ビッグデータを活用した今後の動きがますます注目される。