ノースウェスタン大学の客員教授ロバートJ・ゴードン氏は、米国で注目される気鋭の経済学者だ。2016年には、ブルームバーグが選ぶ「アメリカで最も影響力のある人物50人」のリストの中で、36番目に挙げられている。
そのゴードン氏は、「今日のアメリカの若者たちは、親の世代よりも生活水準が低下する第一世代になるだろう」という主張とともに、「第4次産業革命」や「AIによる革命」を声高に叫ぶ、いわゆる「技術楽観主義者(techno-optimist)」に対して懐疑的な見解を寄せている。
ゴードン氏は、著作の海外販売に際して海外メディアに答えた取材で、「第4次産業革命という言葉は、根拠がない」と言い切っている。AIなどによる工場の自動化は、20年以上前からすでに始まっているが、生産性が劇的に向上したという証拠がないというのが氏の主張だ。
また「ビッグデータ」も同様である。ビッグデータ分析を導入して消費者の性向を把握している企業は、短期的には競争力を持つかもしれない。ただ、他の競合企業が同じくビッグデータを活用するようになれば、最終的に同じ顧客層を、誰が、どのように占めるかの勝負となる。結果、ビッグデータ分析を導入する以前とあまり変わらない状況に戻ると、ゴードン氏は予想している。またゴードン氏は、電気自動車や自動走行車を例に挙げ、昨今のテクノロジー賛美の傾向を暗に批判している。
「1879年に内燃機関が発明された後、30年後には米国の世帯当たりの自動車所有率が90%となりました。毎日11〜22㎏の便や4.5ℓの尿を路上に排泄し、米国の穀物生産量の4分の1を食べていた馬と代替されたのです(中略)一方、電気自動車や自律走行車が市場にもたらす効果はどれほどでしょうか」
このコメントは、馬が自動車に代替された時のような、また洗濯機や冷蔵庫が登場したときのような劇的な変化は、現在、起きていないということを指摘したものだ。総じて、技術楽観主義者たちが主張するような「時代の早い変化」が起きている根拠はなく、むしろ19世紀から20世紀まで続いた経済発展が、人類史において異常かつ特別な時期だったと説明している。
ゴードン氏は著作で、人口の高齢化、教育格差、所得の不平等の深刻化、政府負債の増加など四つの「逆風」により、米国の経済成長率は今後20年以上にわたり1.2%前後にとどまると主張している。一方、その逆風に立ち向かうためには、「富裕層に対する増税」「移民拡大政策」「最低賃金引き上げ」などの政策を推し進める必要があるとした。
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