自動車産業を拠り所に躍進するカナダのインダストリー4.0

ロボティア編集部2016年7月11日(月曜日)

 IoT(Internet of Things, モノのインターネット)などの最先端技術を活用して製造現場の徹底的な効率化などを目指す「インダストリー4.0」への取り組みが、欧米および日本国内で加速化しています。実際に、デジタル化された「スマート工場」の取り組み事例が欧米を中心に見られるようになってきました。

 インダストリー4.0とは、センサーやビッグデータ解析からコミュニケーション・ネットワークやクラウド・サービスに至るまで、多くのイノベーションのすべてを合わせたものを表します。しばしば製造業のデジタル化とも称されます。そこではサイバーフィジカルシステム(*)が常時互いに、生産する商品やそれらを動かす人たちと、コミュニケートできます。

※サイバーフィジカルシステムとは、実世界(フィジカルシステム)のセンサーネットワークなどからの情報をサイバー空間(サイバーシステム)と結び付け、より効率的な高度な社会の実現を目指すサービスおよびシステムのことをいいます。

 インダストリー4.0の世界では、これらのシステムは、システム自身に対し、状況の変化に適応することを教えることができるのが大きな特徴です。つまり、自身のパーツに対して命令し、自身のメンテナンスや修理を計画することさえできます。こうした動きの中核を担うのが産業用ロボットであり、今、ロボット工学の現場ではIndustry 4.0旋風が巻き起こっています。

カナダ・オンタリオ州がインダストリー4.0をけん引するロボット技術の新たな集積地に

 カナダ・オンタリオ州が今、産業用ロボット技術の集積地として脚光を浴びています。なぜオンタリオ州なのでしょうか?同州では、トヨタ・ホンダ・GM・クライスラーなど世界の自動車メーカーが操業し、北米最大の自動車生産地域として長年繁栄してきました。厳しい市場競争下にある自動車業界では、生産効率を高めるべく、工場の自動化など、様々な生産技術の高度化がなされてきました。自動車生産で培われてきたその技術が今、同州のロボット産業の成長の原動力となっているのです。

■進出企業事例1:ファナック・カナダ

 オンタリオ州で操業している産業用ロボット企業の例をご紹介しましょう。「ファナック・アメリカ」の子会社でオンタリオに本拠を置くファナック・カナダ(FANUC CANADA)は、日本から進出している企業の一つです。同社のピーター・フィッツジェラルド・ゼネラルマネージャーは「実際に、ロボット工学はそれ自身の進化を経てきているのです」と、言います。

 フィッツジェラルド氏によると、1950年代に登場した最初のロボットは、単純で、反復可能な信頼できる動きをすることを可能にする数値制御を持っていました。その後、1980年に始まった「ロボティックス2.0」では、インテグレーションによってロボット自身が果たせる機能の幅が広がり、例えば、工場の組み立てラインで自動車の溶接や塗装のほか、金属の切断、物をつかむことやパッキングが行えるようになりました。

※FANUC社製産業用ロボット

ロボティックス4.0:高度化の新たな段階へ

 2010年、インテリジェント・センシング(知的計測、センサー自体がデータ処理やメモリ機能を内蔵しプログラムを組むことができる)技術によって、ロボットは“見る”ことができるようになりました。その結果、工場における作業の正確性が向上、より迅速かつより効率的に動くことが可能になったことで、市場への投入時間を短縮できるようになりました。

「我々が今、足を踏み入れつつあるロボティックス4.0では、ロボットシステムが、他のロボットや人間と簡単かつ安全につながり、協働することで、作業を完了させたり、創造的に問題を解決できるようになります。今ではロボットは話をし、見て、触って、感じて考えることができるのです」とフィッツジェラルド氏は言います。

 インダストリー4.0で必要とされる機能性と高度さのレベルへの到達は、企業単独の力では到底なし得られません。多様なパートナーとの連携が不可欠です。オンタリオ州では、今や、この理念の推進に共鳴し参画するパートナーが次々と増え、そのネットワークは現在も広がり続けています。例えば、スタートアップ企業のコミュニティ、政府機関、エンジニアリングやITサービスプロバイダー、研究開発のラボなどです。「ファナックは、製造業の課題解決に役立つソリューションを提供するべく、何百という現地のインテグレーターと連携しています」

産業用ロボット_フェスト

■進出企業事例2:フェスト・カナダ

 プロセス制御とファクトリーオートメーション・ソリューションの世界的メーカーであるドイツ企業Festo AG&Co.の現地法人フェスト・カナダ (Festo Canada)は、オンタリオの「パートナー・エコシステム」をうまく活用することで成功している進出企業の一つです。先端技術が、競争力を高めるために非常に重要になってきています、とオンタリオ州ミシサガに本拠を置くフェスト・カナダのロジャー・ハレット社長兼最高経営責任者(CEO)は説明します。

「新しい需要が喚起されると、新しい技術が必要になります。インダストリー4.0の実現にはビジネスとサイエンスのパートナーシップが不可欠です。誰もが投資対効果の重要性を理解しています」

「統合された世界」を切り拓くオンタリオ州のイノベーション文化

 ハレット社長によると、同社の成功はハイテク・スタートアップが次々と生まれる豊かな起業文化と、ITやオートメーション、マテリアル・ハンドリング(荷扱い)、ロボットの専門知識などで構成される、強力な地域ネットワークによるところが大きいと言います。フェストはまた、現地の教育機関のネットワークもうまく活用しています。最先端のモノづくりの世界の需要に応えるために必要な技能、例えば、プログラミングや開発からモニタリング(監視)やメンテナンスなどを、教育機関を通じて、現地で調達しています。「当社は統合された世界の実現に向け、必要な技能を従業員に提供する必要があります」

 さらに、フェストは、革新的なアイデアを次々と繰り出すことのできる、新進気鋭のベンチャーとも協働しています。「当社のしていることはちょっとしたインキュベータの役割に近いかもしれません」とハレット社長は言います。産業界のマーケットで起こっている大転換を考えれば、オンタリオ州で進行する産業用ロボットのイノベーションも、タイムリーなことだとハレット社長は言います。何十年もの間、自動車産業の傘下で興隆してきた、無数のサプライヤーと中小企業の存在が強みとなり、オンタリオ州をインダストリー4.0の躍進に寄与する産業用ロボット技術の集積地へと押し上げているのです。

 フェストは今、同じロボット技術の発展・進歩を製造業のみならず、医療や研究室のオートメーション、生命科学、食品生産、小売りなどの分野にも応用しつつあります。「当社は常に、オートメーション・ロボット産業界の振興を考えており、その重要性についてのより広い理解を得られるように、様々なパートナーと協働しています」

おわりに

 このように、オンタリオ州には、インダストリー4.0時代のロボット開発に必要とされる様々な要素が揃っています。パートナー企業の開拓や研究機関との共同開発など、様々な連携のあり方が可能です。日本企業の皆様にも大いに貢献できると期待しております。

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■寄稿者プロフィール
ロバート・A・アルマー(Dr. Robert A. Ulmer)
オンタリオ州政府在日事務所代表 兼 カナダ大使館参事官(商務)。オンタリオ州トロント出身。30年余年の間、日加間の国際ビジネスをはじめ、幅広い分野にわたり、日加交流の架け橋を担う知日派。2006年から現職。

オンタリオ州政府在日事務所について
オンタリオ州政府在日事務所(Ontario International Marketing Centre、東京都港区カナダ大使館内)は、日本とオンタリオ州の貿易・投資促進を図る目的で2006年2月に開設されました。同在日事務所は、日本企業の投資誘致活動、オンタリオ企業・輸出業者への支援、日本の行政・媒体関係者の協調関係を深めるなど、様々な活動を通じてオンタリオ州の産業、ビジネスを紹介し、日加間のビジネス交流・貿易の促進に取り組んでいます。