世界で加熱するビックデータの売買...日本の個人情報の行方は

ロボティア編集部2015年10月26日(月曜日)

 IBMのアジア・太平洋地域マーケティング総括であるデュレス・クリスナン(Dulles krishnan)氏は、「現在、1日ひとりあたり150回スマートフォンに触り、世界ではSNS上での活動が1日20億回以上行われている。そこで生まれるビックデータの意味を理解できなければ、市場を理解することができない時代になった」と指摘している。

 ビックデータの収集方法や解析手法が発達したことにより、生活の些細な情報が莫大な富になる時代となった。米国ではビックデータを扱う“ブローカー”たちが全盛期を迎えている。ここで言うブローカーとは、人々の個人情を収集し、第三者に販売することで利益を出す企業を指す。

 なかでも最も有名なブローカーとして、アクシオム社(Acxiom)を挙げることができる。日本では、博報堂DYメディアパートナーズと事業提携していることで知られる。アクシオム社は全世界7億人以上、1人あたり1500項目の消費者情報を保有している。現在、米国連邦政府・地方政府、またフォーチューンにリストアップされている100大企業の多くが、アクシオム社から情報を購入し業務に活用している。米国で起きた9・11テロの犯人も、アクシオム社が収集したデータをもとに割り出され、逮捕された。オバマ大統領も、大統領選挙でアクシオム社から提供されたデータを活用したと言われている。

 一方、コアロジック(Corelogic)社は、8億件の不動産取引情報と1億件の担保データを保有しているそうで、産業界と米政府にこれを提供していると明らかにしている。 14億人のユーザーとそのビッグデータを抱えるフェイスブックも、データブローカー会社の顧客である。フェイスブックは、2012年のデータロジックス(Datalogix)と呼ばれるデータブローカー業者と協力関係にある事実を明らかにした。ユーザーが商品広告を見ることが、実際の購入にどのようにつながるか調べているそうだ。情報通信政策研究院によると、米上位9つのデータブローカー企業の売上高は、4億2600万ドル(2012年)にのぼる。

個人情報保護法改正案の概要の一部
出典:内閣官房 IT総合戦略室 パーソナルデータ関連制度担当室

 日本では、個人情報保護法改正案が9月3日に成立した。改正案で定義されているような“匿名化”処理を施せば、個人情報を売買することが可能となった。匿名化とは、データに対して特定の個人を識別できないように加工し、加工後には元の個人情報を復元できなくするというものだ。

 ただし、この匿名化が本当に可能なのかという問題が浮上している。日本のネットセキュリティーに詳しい専門家のひとりは「膨大なデータから個人を絶対に特定でいないようにするというのは現実可能なのか。懸念が残る」と話す。

 素人目に見れば、上で書いたようにテロ犯を割り出すことができるくらいの技術がすでに存在するのであれば、匿名化を施したデータといえども、特定の個人を“逆算”し割り出すことは可能なのでないかと疑ってみたくなる。

 また、これまで規制されてきた個人情報がいろいろな場所でやり取りされ始めれば、セキュリティーが甘いどこかのポイントやタイミングで、流出、盗難されるリスクが高まるはずである。欲しい商品が欲しいタイミングで得られる便利な社会が到来するのか、はたまた、どこに行っても誰かに見られている薄気味悪さを拭えない社会になるのか。個人情報、ビックデータの本格的な流通を目前に控え、利用者ひとりひとりの個人情報に対する新しい知見が求められそうだ。

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