シリコンバレー留学中の日本人学生がシンギュラリティ大学を訪問してみた

シリコンバレー留学中の日本人学生がシンギュラリティ大学を訪問してみた

Written by 磐崎友玖

Posted date:2017.06.07



 ITの聖地シリコンバレー。しかし、そこで存在感を示すのは民間企業だけではない。シリコンバレー・サンフランシスコ湾沿いには、米航空宇宙局(通称NASA)と米軍が共有する広大なリサーチセンターが存在している。その中でも、世界中から一際注目を集めているのが謎の教育施設である「シンギュラリティ大学」だ。

■シンギュラリティ大学とは

 そもそもシンギュラリティ大学とはどういった機関なのだろうか。Wikipediaには次のような説明がある。

<シンギュラリティ・ユニバーシティ(Singularity University、2008年 -)は、アメリカ合衆国シリコンバレーを拠点とする教育機関である。ユニバーシティ(大学)と名が付いているが、独自の校舎もなく学位の授与もない>

 なるほど、すなわち正規の大学ではないのである。またこのように続く。

<教育、エネルギー、環境、食糧、世界的な保健、貧困、セキュリティ、水資源を人類の最も困難な課題(Global Grand Challenges)と定義し、加速的に発展する革新的技術を使ってこれらに積極的に取り組むことをミッションとしているベネフィット・コーポレーションである。また、革新的技術を開発する企業のための、新しいスタイルのスタートアップ・インキュベーターとしても各種活動を行っている>

 かなり壮大なミッションを掲げていることがよくわかる。そして同大学は、2016年夏より「Global Impact Challenge」の公募を開始し、日本含む各国でシンポジウムを開くなど広報に力を入れた。ここまで謎組織であれば当然である。結果、募集人数80名に対して、世界中から数千の応募があったという。このプログラムの優勝者は、同大学で10週間の短期研修に参加することができ、「破壊的技術を持ち、世界規模の課題解決に挑戦したいスタートアップにぜひ応募してほしい」と、卒業生が運営する「エクスポネンシャル」の日本代表であるジョヴァン・レヴォレド氏は語る。また、経営者向けプログラムも開講しているというが、超高額にも関わらず多数の応募があるらしい。(参考資料

 なお同大学には①Google等が費用を全負担する世界80名選抜型の10週間のプログラム(GSP)と②1万4000ドルの費用がかかる1週間の経営者向けプログラムがある。次回は、2018年1月下旬に1週間のエグゼクティブコースが開かれるようだ。

■謎組織である理由のひとつ

 まずはGoogleで情報収集をしてみるも、ニュースサイトの公式な取材を除いて、個人による「訪問してみた」系のブログ記事は存在していない。米Q&Aサイト「Quora」には、「Is it possible to visit Singularity University for “fun”?(観光目的でシンギュラリティ大学を訪問することは可能でしょうか?)」という問いに対して、当大学マネージャーがこのような回答をしている。

「The short answer is, unfortunately, no. We do hold regular info sessions at Singularity University and will very often give tours to select individuals that have a business or potential partnership reason for seeing campus」

 日本語訳:残念だけど、端的に答えると「不可能」だ。ただ、シンギュラリティ大学はセミナーを定期開催したり、ビジネスやその潜在的なパートナーのためにシークレットツアーを行ったりしているよ。(引用元)

 一般開放はされていないようだ。確かにNASAと米軍が共有する立地内でもあることも重なって(いや、これこそが本大学設立に関わる重要な要素だと思うが)、それは難しいようだ。しかし、完全に外部に対して閉ざしているわけではないとのことである。

■アポなしで突撃してみた

 NASAにはFree Public Visitor Centerがある関係で敷地内に入ることができる。そして、それには目もくれず、なんだかんだ建物の前まで訪問することができた。米軍もいるので恐ろしさもあったが、好奇心には勝てないのである。流れを紹介する。


 まず厳重な警備がなされる入り口を通過すると、近くにNASA RESEARCH PARKの文字がある。シンギュラリティ大学の文字は特にない。


 すぐ近くにはスペースシャトル。NASAらしいオブジェクトである。


 右折すると綺麗な協会が佇んでいる。基地内とは思えないほど平和を感じる。


 近くには専用の郵便局も見つけた。


 少し進むと住居のリース看板を見つけた。米軍とNASAにしか貸していないらしい。


 さらに進むとようやくシンギュラリティ大学への標識を発見。


 そしてこれが例のシンギュラリティ大学である。とても小さな建物だ。少数の部屋以外は存在していないようにも思える。ワークショップ形式等でインキュベートすることだけを目的として、あくまで開発等は違う場所でさせるのだろうと解釈した。しかし残念なことに、金曜日ではあったものの閉鎖されていた。人の気配は皆無で閑散としている。建物に立ち入ることはできず、窓から内部を覗くことに。エントランスの電光掲示板は点灯しっぱなしで、某有名コンサルティング会社のロゴも見えた。繋がりが強いのだろう。確かに、「教育、エネルギー、環境、食糧、世界的な保健、貧困、セキュリティ、水資源」の中のある分野で存在感を発揮しているのを知っている。

 なお関係者の方によると、クラスがある時間以外はいつも閑散としていて、また、機密性の高い研修や企業エグゼクティブがいる場合には厳重にロックされ、仮にラボに人がいてもアポ無しでは入るのは難しいみたいです。またインキュベーション施設が道路の反対側にありますが、やはり人がいないことが多いようです。なるほど。


 シンギュラリティ大学の小さな建物の横には居住区域が存在する。先ほどのように主にNASAや米軍が住んでいるものと思われるが、もしかすると経営者が住んでいるかもしれない。一部部屋には生活感があったが、ここも人気はあまりない。

■結論

 シンギュラリティ大学の建物の近くまで訪れることはできたものの、金曜日13時頃にも関わらず閑散としていた。Yコンビネータなどの有名インキュベーターと何が異なり、なぜNASA・米軍の施設内に存在し、それでいて世界中からスタートアップを探し出しているのか。どんどん謎は深まる一方であるが、シンギュラリティ大学のミッションでもあり、そして彼らが生み出す「エクスポネンシャル(指数関数的)」なスタートアップとはどのような企業なのか、引き続き注目をしていきたい。

(ちなみに日本でやるならJAXAの施設内だろうか…?)

■追記

 シンギュラリティ大学の卒業生および賛同するメンバーで構成された非営利組織とその運営母体からなる「Exponential.jp(エクスポネンシャルジャパン)」の公式サイトがある。そこで同大学Cofounderのプロフィールが記載されていたので抜粋したい。

<レイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)とは

 米国の発明国家勲章を受章、発明家の殿堂入り、21個の名誉博士号と3人の大統領から招へいされた、希代の天才といわれる。17歳の時に「I’ve Got a Secret」という米国のクイズ番組に出演して、コンピュータ作成した音楽を披露。MIT在学中に起業して諸大学のデータベースを構築して大学選択のプログラムを作成 。その後別会社を設立して、オムニ・フォント式OCR、フラットヘッドスキャナ、 Kurzweilシンセサイザー、文章音声読み上げマシーン(カーツワイル朗読機)など多くの発明。その後、シンギュラリティに関する著作を次々と発表。チェスの試合でコンピュータの勝利をほぼ正確に予測。人ゲノムの解析についても時期を正確に予測。その他、遺伝子解析に係る時間も的中。シンギュラリティ大学を創設。2012年にGoogleにDirector of Engineeringとして参画、言語処理の研究開発を担当>

 天才の中の天才というべき人物なのであろう。

【原文】シンギュラリティ大学を訪問してみた
©All texi&photo by 磐崎友玖
磐崎友玖twitterアカウント→@_adsaki