10年前、未来学者ホセ・コルデイロ(Jose Luis Cordeiro)教授は、遺伝子操作とロボットの発達で、身体機能を新たに変化させた新しい種が誕生するだろうと予想した。人類が「トランスヒューマン」という新しい種に進化するというものである。
コルデイロ教授は世界的に有名な未来学者のひとりである。 MITの機械工学科を卒業後、ベネズエラ大学で経済学博士号を授与された。現在、米シンギュラリティー大学教授、世界トランスヒューマン協会エクストロピー研究所(Transhumanism's Extropy Institute)の総括責任者であり、アジア経済研究所(IDE)訪問研究員として活動している。主要な研究テーマは、未来のエネルギー、教育、経済、トランスヒューマン関連の生命倫理、人工知能などだ。
コルデイロ教授は当時、そう遠くない未来に「人工舌」を持ったソムリエが登場するだろうと予測した。バイオ人工舌を持つソムリエは、味を識別するために水を飲む必要もない。それら技術と融合し人体の限界を超えた新しい人類が、すなわち教授が主張する「トランスヒューマン」である。
未来学者たちは、映画「ガタカ(GATTACA)」に登場したような“遺伝子貴族”の登場も遠くないと予見してきた。ガタカでは、遺伝子操作を通じて優れた遺伝子のみを持つ赤ちゃんが“設計”されていた。1997年に上映された映画の内容は、2017年1月現在、現実のものになりつつある。遺伝子の秘密がすでに解けはじめているのだ。
世界最大の遺伝子分析企業「イルミナ(illumina)」は、100ドル程度のコストで遺伝子検査を実施し、特定の疾患を事前に知ることができるとした。現在、遺伝子検査を通じて自分の遺伝子において発症率が高い病気を事前に知ることができ、その疾患に対する健康管理も可能になった。
科学技術の発達で、人間の身体機能は完全に再現されようとしている。臓器は人工的につくり出すことができはじめており、また手足はロボットアームなど外骨格ロボットで代替されはじめている。また人類は、遺伝子再配列および複製機能を通じて、新たな命を「デザイン」することができる段階に入った。 2001年、人間のすべてのDNAの情報が解析されて以来、人間の“ゲノム地図”はより完全な形でつくられつつある。
幹細胞研究とナノ・バイオテクノロジーの研究は、日進月歩で進んでいる。倫理的な観点や法制度との軋轢があるため、まだクローン人間はつくられていないが、今後、遺伝病を克服した優れた遺伝子でつくられた赤ちゃんを“デザイン”することも可能だという説がある。人間の脳の解明も進む。米国、EUなど先進国はここ数年の間に、国家レベルで「脳の地図」を研究・成果を上げている。
昨年、米ワシントン大学と英オックスフォード大など国際共同研究グループは、大脳皮質を180個の領域に分割し、その機能をまとめた脳地図を科学学術誌ネイチャーに発表した。研究者たちは、既存の脳地図で機能が明らかにされていない97個の領域の役割を調べた。
現在、コルデイロ教授が10年前に主張した「トランスヒューマン」が誕生する日が少しずつ近づいている。コルデイロ教授は、ホモサピエンスが今後、トランスヒューマンを経て、最終的に不変不滅な人生を送る新しい種「ポストヒューマン」になると予測している。自然の法則による進化ではなく、人間が自らつくり出す技術と規則によって、新しい種が誕生するというのだ。
なおコルデイロ教授は、2029年になれば、人間の脳よりも高速なコンピュータが出てくると予想している。もう十数年後の話である。それから先、一世紀後の人類ははたしてどのような姿になっているのだろうか。
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