【疼痛治療最前線】VRはモルヒネより鎮痛作用アリ?医療費削減にも期待

【疼痛治療最前線】VRはモルヒネより鎮痛作用アリ?医療費削減にも期待

関連ワード:VR 社会的課題 米国

Written by 大澤法子

Posted date:2016.10.24

VR_火傷_疼痛
photo by Firsthand Technology

 今年VR元年を迎えたわけだが、VRの臨床的応用に関する研究についてはすでに20年以上も前から行われている。ここでは火傷治療時に伴う痛みを緩和する場合におけるVRの活用事例を紹介する。

 火傷に対する治療自体は医療技術の進歩により劇的に改善され、重度の火傷により命を落とすケースは少なくなった。問題は火傷治療時に伴う疼痛(とうつう)だ。疼痛対策としてオピオイドと呼ばれるモルヒネ系の鎮痛剤が処方されることが多いが、オピオイドの処方を受けている時でさえも患者の多くは耐えられないほどの痛みと闘っており、その数は86パーセントに及ぶことが報告されている。

 疼痛治療が長引いた場合、患者自身が身体的かつ精神的な体力の低下を経験するどころか、医療費がかさみ、経済的苦境に立たされることになる。疼痛管理のエキスパート、ダイアン・グロマラ(Diane Gromala)医師は、医学系学術振興財団「メイデイ・ファンド(MayDay Fund)」による資金援助のもとロサンゼルスにて実施された医療従事者およびエンジニアのための救急医療ワークショップで、疼痛管理を取り巻く医療費の問題についてこう指摘した。

「少なくとも先進国に住む人々の5人に1人は長期にわたり慢性的な痛みと闘っています。慢性的な痛みが続くと、次第に身体が衰弱していきますが、問題はこればかりではありません。慢性的な痛みに対して多額のお金が費やされるわけですから、医療費の問題も関係してきます。例えば、米国では1年を通じて慢性疼痛にかかる費用は5600億ドル(約58兆2400億円)に及んでいます」

 ところが、鎮痛剤による従来の慢性疼痛治療がVRによってとって代わられることで、医療費の大幅な削減が見込めるという。そう断言しているのは、南カリフォルニア大学クリエイティブテクノロジー研究所のメディカルVR部門にてチーム長を務めるアルバート・”スキップ”・リッツォ(Albert “Skip” Rizzo)氏だ。

「VR用ヘッドセット、高速データ通信可能なコンピュータ、そしてグラフィックという3条件さえ揃っていれば、大幅なコスト削減が望めます。また、比較的応用が利くことも従来の治療法にないメリットのひとつでしょう」

 そもそも痛覚は心理的要素によって強く影響される感覚である。体内に痛みの信号が入ってくると、「有痛かどうか?」を身体が判断し、その結果「痛い」という感覚が生じるようになっている。つまり、痛みの度合いは意識の問題なのである。そこで、VRを使って別の次元に意識を移すことで、痛みの信号への注意が薄れ、痛みが軽減されるだろうと考えたのが、米ワシントン大学のヒューマンインタフェーステクノロジーラボ(Human Interface Technology Lab)のハンター・ホフマン(Hunter Hoffman)氏、同大学医学部のデイビッド・R・パターソン(David R. Patterson)氏である。

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参照
pcmag.com