カンボジア初にして最大のVC・SADIFが目指す革新と国の成長

SADIFのファンドマネージャー ボラ・ケム氏

シンガポール、インドネシア、マレーシアなど、東南アジアからは、ここ数年、世界的なベンチャー企業が続々と登場している。Grab、GO-JEK、Travelocaなどユニコーン企業の名は、日本でもお馴染みとなった。ただし、東南アジアと一言で言っても、各国のベンチャー事情は実にさまざまなだ。人口、経済規模、生活水準、課題や需要などなど、それぞれの実情がある。今回は、東南アジアの中でも、まさにこれから国の成長が始まろうとしているカンボジアにてベンチャー企業に投資を行う、同国初にして最大規模のベンチャーキャピタルにフォーカスしたい。

2017年、カンボジア初となるベンチャーキャピタル、「スマート・アシアタデジタルイノベーションファンド」(以下SADIF)が創設された。同ファンドはカンボジアのデジタル経済の拡大を目指し、国内のテックスタートアップ企業への投資を積極的に進めている。母体はカンボジアの携帯電話大手、スマート・アシアタ社。現段階でのファンド規模は総額で500万ドル(約5億4,000万円)だが、発展途上にあるカンボジアにとって、そのインパクトは決して小さくない。

近年、海外からカンボジアへの投資は加速している。中国資本、韓国資本、シンガポール資本、タイ資本等のカンボジアへの流入は有名だが、日本も例外ではない。カンボジア政府の公式データによると、2016年と2018年の国別投資状況で、日本からの投資額は中国に次いで2番目となっている。また、SADIFの出資元であり、国内携帯電話最大手の一つであるスマート・アシアタ社に対しては、三井物産が2017年に74億円を出資。さらに翌年には追加で約100億円の出資を決めた。

劇的に変わりつつあるカンボジアの投資環境。その中でプレイヤーとして、また現場担当者として挑戦を続ける、SADIFのファンドマネージャー、ボラ・ケム氏に現地でお話をうかがった。

■スマートフォンを使ったありとあらゆるサービスをポートフォリオに

ケム氏は、SADIFの大枠の戦略は「スマートフォンを使ったありとあらゆるサービスをポートフォリオに加えること」と説明する。そこには、東南アジア地域の特性、また同地域のデジタルエコノミー独自の理由がある。

東南アジアでは、スマートフォンが人々の生活の中に深く浸透している。欧米や日本では、テレビやPCなどの端末・メディアが経済を動かす重要なファクターとなっているが、東南アジアのような新興国地域ではスマートフォンからインターネットに触れ始めたという人も少なくない。そのスマートフォン・セントリックな情報・経済環境が先進国の人々が考える以上のスピードで広がろうとしている。

「私たちの考え方ではデジタルエコノミーはタコのようなものです。多くの足があって違う動きをしても、それぞれが協調して大きな全体として動くのです。伝統的な業界と違いすべてが関係しあいます。決済サービスはeコマースと連動しますし、eコマースはメディアと連動します。すべてのサービスが全体として一つにつながるのです。そのため、局所的な一つの投資ではあまり意味がないのです」(ケム氏)

点ではなく面で捉える投資戦略には、カンボジア独自の事情も存在する。アメリカのシリコンバレーやシンガポールといった成熟した市場では、「数パーセントのシェアでも取れば、投資リターンは十分に大きい」が、カンボジアのような発展途上の市場では「各セクターにおいてベストなスタートアップを見つけることが重要」だとケム氏は言う。

「この国にはまだテクノロジー分野におけるリーディングカンパニーと言える会社が存在しません。カンボジアでもGoogle、Facebook、YouTubeを皆当たり前に使っていますが、国内からそういった企業はまだ出ていないのです。裏を返せば、現時点でどの会社、起業家にとっても少なくとも国内のトップ企業になるチャンスがあるということです。それはフィンテックから出てくるかもしれないし、eコマースかもしれないし、あるいはデジタルメディアなのかもしれない。それは私たちにもまだわからない。それが、スマートフォンを使ったありとあらゆるサービスを獲得することを戦略に据えている理由です」(ケム氏)

河原良治

記者:河原良治


神奈川県生まれ。ニューヨーク市立大学ハンター校政治学部卒。国連日本政府代表部インターン、IRコンサルティング会社での法人営業を経て、フリーのコーディネーターに。国内外のクライアントに通訳、翻訳、調査、コンテンツ制作等のサービスを提供。