世界のほとんどの地域では依然として、水を一度沸騰させることで浄水し、飲み水を確保している。また、容器に水を入れて紫外線にあて続けることで殺菌する方法も珍しくない。
しかし、殺菌に使える紫外線は太陽エネルギーのうちのほんのわずか。この方法で飲用水を確保しようものならば、丸二日ほど日光に当てておかなければならず、手間も時間も現実的ではない。
特に、下水処理施設を備えていない開発途上国では、昨今の水不足を受けて、浄水処理技術の開発が急速に求められている。そんななか今月12日、とあるナノ構造デバイスに対する研究報告書がネイチャーナノテクノロジー(Nature Nanotechnology)に公開された。
アメリカのスラック国立加速器研究所(SLAC National Accelerator Laboratory)とスタンフォード大学研究チームが開発したこのデバイスは、郵便切手サイズほどの大きさに過ぎないが、太陽エネルギーを活用しながら、たった数分で水中の細菌を殺菌するという優れものだ。
このレポートによると、ナノ構造デバイスの表面に降り注ぐ太陽光が過酸化水素やその他の殺菌物質を生成し、これらが水中の細菌を20分足らずで99.99%殺菌。そして殺菌後、発生した化学物質はすぐに消えるため、不純物をほとんど含まない純水が出来上がる仕組みとなっている。
研究チームは、「このデバイスは、一見ただの小さなガラスのように見えるが、水中に落として太陽光にあてるだけで、あとは勝手に水を殺菌 してくれる。」と説明している。
電子顕微鏡を利用して同デバイスの表面を見てみると、指紋のような模様が見られる。この線は二硫化モリブデン製の非常に薄い薄膜で、研究者たちは「ナノフレーク(nanoflake)」と呼んでいる。このナノフレー クが幾層にも重ねられ、迷路のような見た目になっている。
ナノフレークの原料である二硫化モリブデンは、主に産業用潤滑剤などに使われているのだが、原子レベルの大きさに階層化することで光触媒になるという「異なる特性」を引き出すことが可能なのだという。
二硫化モリブデンを光触媒として光にさらすことで多くの電子が動き、細菌を殺すための化学反応が起きるというわけだ。 加えて、二硫化モリブデンのナノフレークの層に銅の層を追加することで、太陽光に反応し、殺菌剤に使用される物質である過酸化水素のよう な活性酸素種を生成するように調整しているそうだ。
研究チームは二硫化モリブデンは、安価かつ容易に作りだせる物質であるだけに、開発途上国などでも普及しやすいと主張している。 ただし、このナノ構造デバイスが万能というわけではない。 これはあくまで、水中にある細菌を殺菌する装置なので、水中にある化学汚染物質まで除去することは不可能だ。
さらには、これまでに3種類の細菌に対しての殺菌テストを成功させているものの、その他すべての細菌に対しても有効であるかどうかは不明なところだ。また、テストは研究所で作られた特定の細菌が混ざった水に対して行われただけなので、実際のさまざまな汚染物質などが混ざった水に対してどこまで有効に働くのか、今後も慎重に実証していく必要があると言われている。