医療・ヘルスケアと、ブロックチェーン技術の融合が始まろうとしている。なかでも、遺伝子・ゲノム解析×ブロックチェーンの動きは非常に興味深い。
米スタートアップ・Nebula Genomicsは、ブロックチェーン技術をベースに、個人が遺伝子の情報を売買できる時代が到来するだろうと予想している。同社は、ハーバード大学医学部のGeorge Church教授らが設立したスタートアップ。現在、ブロックチェーン技術で遺伝子データを共有・分析できるプラットフォームの構築に乗り出している。併せて、Nebula Genomicsのネットワーク、またプラットフォーム上で取引されるトークン「Nebula tokens」の導入も計画中だ。
同社が想定しているビジネスモデルはまず、遺伝子の一部分である「エクソム」の解読する「エクソムシーケンス」(Exome Sequencing)のコストを300ドル以下、またフルゲノムシーケンス(Whole Genome Sequencing)のコストを1000ドル以下で安価に提供しつつ、遺伝子分析データの所有権を個人が持つようにするというものだ。そして個々人は、自分の遺伝子情報を研究目的で使用する製薬会社・研究機関などが活用できるよう売ったり、寄付できる。一方、製薬会社・研究機関などは、データの所有者である個人にコストを支払うことになる。
遺伝子およびゲノム研究・産業が活性化するためには、より多くの量のビッグデータが必要となる。しかし、それぞれのデータが散在しているうえ非標準化されており、個人情報保護との絡みもある。そこで、彼らはブロックチェーン技術を使えないかと考えたわけだ。
現段階では、データの所有者と購入者との間には、遺伝子分析企業が存在するが、所有者がブロックチェーンベースのネットワークに加入すれば、購入者と直接つながることができる。データの所有者である個人は、自分のデータに第三者がアクセスすることを防ぎつつ、トークンを使って自分の遺伝子分析サービスを受けることもできる。
George Church博士はメディアの取材に対し、「ブロックチェーンの技術を使用すれば、研究者や製薬会社が契約に違反することも把握できる(中略)これは(個人遺伝子データ)を販売するのではなく貸すコンセプト」と説明している。
最近、トークンをリリースした韓国企業「マイゲノムボックス」の、ブロックチェーンベースのプラットフォームビジネスモデルもNebula Genomicsのそれと非常に酷似している。
マイゲノムボックスは、顧客の遺伝子情報をクラウドに保存・活用し、ユーザーに様々な情報を提供するプラットフォーム事業を展開しているスタートアップだ。例えば、遺伝子ビッグデータを分析し、顧客の遺伝子特性に合う食べ物や化粧品の情報をスマートフォンに提供したり、特定の遺伝子を持つユーザーの発病の可能性を事前に知らせるなどである。
マイゲノムボックスの新規ブロックチェーンサービス「マイゲノムブロックチェーン(MyGenomeBlockchain)」を略した「MGB」。トークン名は「MGB coin」となる。
マイゲノムボックスのパク・ヨンテ代表は、メディアの取材に答え「個人の遺伝子データの主権の透明な確保、市場参加価値の最大化のためにICOを推進することにした」とし、「23andmeのような遺伝子分析企業は、データを製薬会社やバイオテクノロジー関連機関に研究開発用途で販売したが、その利益を消費者に返さなかった。そのようなビジネスの限界を乗り越えることができる」と述べている。一方、同社のペク・ソクチョル博士(CTO)は、「ブロックチェーン技術で『共有経済』型の遺伝子データ生態系を構築する(中略)ブロックチェーンの生態系のなかで、遺伝子情報に基づいたパーソナライズ商品やサービスが提供されるだろう」と見通しを語った。
Photo by MyGenomeBOX