遺伝子解析×AI×ブロックチェーン企業が構築を目論む「ライフデータ経済学」とは

ロボティア編集部2018年5月21日(月曜日)

「遺伝子解析×ブロックチェーン技術」を開発するスタートアップと、「ディープラーニング×ブロックチェーン技術」でヘルスケアデータ交換プラットフォームの開発する企業が「ライフデータ経済」(life data economics)という新しい研究分野を開拓するために手を握った。

米スタートアップ・ネブラゲノミクス(Nebula Genomics)と香港に拠点を構えるロングジェネシス(Longenesis)は15日、ライフデータ経済領域の研究を進めるためにパートナーシップを締結することを明かした。

ネブラゲノミクスは、遺伝子研究をリードするハーバード大学ジョージ・チャーチ(George Church)教授、ハーバード大学の研究員であるカマル・オバッド(Kamal Obbad)氏、デニス・グリシン(Dennis Grishin)氏らが共同で設立した企業だ。同社はブロックチェーン技術をベースに、個人が遺伝子情報を製薬会社やバイオテクノロジー企業に直接販売できるプラットフォームを構築しており、今後、他の種類の臨床データ販売まで拡大する計画を掲げている。

一方、ロングジェネシスはAI企業・インシリコメディシン(Insilico Medicine)と、世界第2位のビットコインマイニング企業・ビットフューリー(Bitfury)が共同で設立した企業だ。ブロックチェーンベースのプラットフォームを使用して、ユーザーが自分のデータを安全かつ個人的に販売できるようにするデータ市場の構築を目標としている。現在は、インシリコメディシンと共同開発した人工知能ツールを使用して、実験室で行われたテストの結果のような健康関連データを保存・交換するためのプラットフォームを開発している。

チャーチ教授は、「ネブラゲノミクスは“バイオバンク”のような大規模なデータプロバイダと、個人が自分の遺伝子情報の所有権を維持しつつ、ともに利益を稼ぐことができるようにしていく。また遺伝子データ生産を奨励し、データを単一のネットワークに集め、研究者たち便利かつ安全にアクセスできるようにする予定である」としている。加えて「ロングジェネシスは、長期的な健康データに焦点を当てた同様のプラットフォームを構築しており、ふたつのプラットフォームは互いをよく補完し合うだろう」と説明している。

ネブラゲノミクスのCSOであるグリシン氏は、「現在、製薬会社やバイオテクノロジーの研究者たちは、手動でデータの使用可能性、交渉価格、契約書の作成、価格の支払いを行う必要がある。遺伝子のデータを収集する作業は速度が遅く、そのプロセスに多くのコストがかかっている」と強調。「私たちはスマートコントラクトを通じて、データを自動的に収集し作業を高速化する予定だ」としている。
インシリコメディシンのCEO、またロングジェネシスのCSOであるアレックス・ザヴォロンコフーブ(Alex Zhavoronkov)博士は、「これまで個人データの価値は、主に商品やサービス販売を通じた利益として定義されてきたが、人工知能とバイオテクノロジーの分野が発展を遂げることで新しい(価値となる)時代を迎えつつある。一生の間、さまざまな種類のデータが収集され、個人と経済にこれまでに類を見ない医療的メリットが提供されることになる(中略)健康と長寿という文脈で、ライフデータを時間・時期・関係・解決・結合的価値に即して評価する新しい価格と価値モデルが必要」と話している。

両社はブロックチェーン技術を活用して、ライフデータを交換することができる、より効率的かつ公平な経済プラットフォームを開発する予定である。

両社の人間のライフデータ経済の基礎的な研究に関しては、今年初めにピアレビュージャーナルに論文が掲載されている。プラットフォームのコンセプト実証も、1年間の予備研究を通じて確立された状況だ。

論文の結論で研究者たちは、「さまざまなデータ類型の価値、さまざまなデータ類型の組み合わせ、ひとつのデータ類型の時間的価値、データ類型の組み合わせの時間的価値に対する理解が不足しており、多くの場合、論争中である(中略)これら問題を解決するために、今後新たな職業『データ経済学者(data economist)』が生まれ、健康データ経済に関する研究所もつくられることが予想される」と指摘している。

また「近年では人工知能の発展により、自撮り写真や血液検査など非常にシンプルなタイプのデータから、年齢や人種、性別など生物学的な特徴を正確に予測することができるようになってきた(中略)さまざまなデータ類型の価値は、利用方法に応じて変わる可能性がある。例えば、保険会社の場合、自撮り写真に比べて遺伝子データの方がデータ生成コストが大幅に高くなる。患者の健康状態に関する写真の価値は、遺伝子データの価値よりもはるかに高くなるかもしれない。またそれらデータを組み合わせた場合、個々のデータよりも価値があるかもしれない」としている。

また、共同研究チームは、ライフデータの真の価値を決定するために、「マイクロデータ経済学」(Micro Data Economics)と「マクロデータ経済学」(Macro Data Economics)という新しい領域を設定する予定だとしている。マイクロデータ経済学では、プロテオミクス(Proteomics)のように新薬開発に使用されるライフデータや、特定の分子の構造と活動に関連するデータの価値を研究する。マクロデータ経済学では、電子カルテや遺伝子学のような、人間の健康を決定するために使用されているライフデータの価値を研究する。

Photo by Nebulagenomics