英国政府は毎年160億ポンド(約2兆2562億円)を社会的弱者層に福祉手当として支給する。しかしながら、そのうちの約35億ポンド(約4935億円)が不正受給や行政ミスなどにより浪費されているという現実がある。より具体的には、意図的な不正受給が約12億ポンド、受給者のミスによる「過剰支払い」が15億ポンド、行政関係者のミスによる損失が7億ポンドと英国政府は推定している。
そこで英国政府はブロックチェーン技術に着目。受給者の支出内訳を政府が正確に追跡することで、正しくない需給をフィルタリングすることができないかと考えた。英国労働年金省(以下、DWP)は、ロンドンに拠点を構えるITスタートアップ・GovCoinと提携しミクロな標本を対象に秘密裏に実験を開始した。
実験に参加した受給者は24人だ。彼らは6ヶ月間、GovCoinが開発したブロックチェーンベースのスマホアプリを通じてのみ手当の支給・使用が許された。GovCoinは実験参加者の手当の支出内訳を暗号化。複数のサーバーに分散保存し、簡単に操作できないようにした。
保存された情報を活用することでDWPは不正受給を追求することができ、申請や支給過程で生じる細かいミスを捕捉・是正することができるようになった。アプリケーションは口座の役割を果たしつつも、中間コストの節約という想定外の成果を収めることになった。
DWP関係者は、小規模集団ではあるが福祉手当の支給効率を高めることにブロックチェーンが効果を示したとし、参加者たちもGovCoinのシステムを役に立つと評価したと実験を総括した。銀行口座の開設が困難な大半の受給者が、GovCoinのシステムを活用することで手当を体系的に運用できるようになったというのだ。
DWPは追加のシミュレーションおよび結果の分析を経て、GovCoinを拡大導入する案を慎重に検討していることが分かっている。単なる口座の役割を果たすアプリケーションというレベル超え、今後は仮想通貨で福祉手当を支給することも可能と見て技術開発を検討中とのこと。
一方、憂慮する声もある。英国科学部は、受給者がシステムを理解し適切に活用するまでに多くの教育が必要だと主張する。「国民の信頼」を獲得することも大きな課題だ。個人の取引状況など機密情報が流出したり、政府によって監視される可能性に対しては懸念が大きいからだ。その点に関してDWP関係者は、受給者の同意なしに任意の情報を閲覧したり、流出させることはできない仕組みと説明しているが、論議は続いている状況だ。
英Open Data Instituteの技術担当者Jeni Tennison氏は、DWPは過去の実験結果と外部専門家の分析を一般に透明に公開する必要があるとしつつ、個人情報の保護・処理のためのガイドラインを策定が優先されなければならないと強調した。
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