10月18日、アメリカの調査会社であるガートナー(Gartner)は、2017年に企業や組織が戦略的に取り組むべきとする「技術トレンドワード」のトップ10を発表した。そこには「機械学習とAI(人工知能)」「ブロックチェーン と分散型台帳」「インテリジェントなアプリ」「仮想現実(VR)と拡張現実(AR)」などがあげられている。
なかでも「仮想現実(VR)と拡張現実 (AR)」は、夏に爆発的人気を博した「ポケモンGO」や、Facebookが買収した米Oculus VRのヘッドマウントディスプレイ(HMD)「Oculus Rift」、さらには、先月ついに発売されたソニーの「PlayStation VR(PS VR)」など、さまざまな分野から注目され、急激なスピードで拡大しているとする。
そもそもARとVRの差は何だろうか。 簡単に言えばARは現実背景に3次元仮想イメージを重ねてひとつの画像で示す技術であり、VRは仮想環境全体をコンピュータ・グラフィックで作成し、実際に周辺状況のように感じるようにする技術である。
しかし、ポケモンのようなゲーム以外にも、ARの可能性は限りなく大きい。 たとえば、スウェーデン家具大手イケア(IKEA)で開発されたカタログアプリは、AR技術を使って、自宅でイケアの家具を3D視覚化することができる。印刷されたカタログから家具をピックアップした後、スマートフォンのカメラを使いながら実際の部屋を撮影すると、画面上の部屋に選択した家具が表示される仕組みとなっている。
部屋のデザイン性を確認したり、正確な大きさを割り出すなど、製品の購入を検討する 際に非常に便利なサービスだ。このように、一般消費者たちにはあまり馴染みのなかったAR技術は、ゲーム産業だけでなく、他の産業分野において身近なものとして定着しつつある。
英国の投資銀行ディジ-キャピタル(Digi-Capital)が昨年発表した報告書では、仮想現実 (VR)と拡張現実(AR)を合わせた世界のビジネス規模は、2020年に1200億ドル(約13兆434億円)になると推測している。特筆すべきはその内訳で、全体1200億ドルのうちVR関係はわずか300億ドル(約3兆2608億 円)にすぎず、残りの900億ドル(約9兆7826億円)はAR関係だととしている。
すでにARはゲーム分野のほかに様々な産業に導入され、業界の姿を急激に変貌させている。 たとえば製造分野では、ARによって仕事の進め方が変わりつつある。 製造過程において、従来の紙ベースの作業指示書からタブレット用ARシステムを導入することで、リアルタイムで指示を受けることができる。また、実績情報を扱うデータ管理においても、その都度登録することで、最新のデータ状況を瞬時に共有することができる。これは、製造過程における手間を最小化して所要時間も削減し、業務の効率性を極大化するだけでなく、それぞれ個人の業務もよりスムーズなものにしている。
同様に医療・ヘルスケア産業も、ARの活用度が高い分野であると言える。今ではAR機器によって、さらに精密な医療診断が可能に。なかでも、外科手術におけるリスクの軽減、患者への負担の軽減の補助に大きく寄与すると言われ、すでに一部では実用レベルの段階にまで来ている。
前述した例は、ARが活用される数多くの分野のうち、ほんの一部に過ぎない。AR技術は今後、教育、放送、観光、建設などあらゆ る分野に導入拡大され、既存の業務に革新をもたらすだろう。
しかし、一方でAR技術が様々な分野で具現化されることで、著作権を含めた法的問題のほかにも、個人のプライバシー問題や現実世界に対する感覚過敏の問題などが、浮上しつつある。業務上導入に先立って、データの収集範囲、データ保存方式、データ所有主を明確に区分するなど、さまざまな、そして適切な規制を作る必要がある。慎重かつ倫理的な活用が先行しなければ、その利点を最大限に生かせないという点は、その他の技術となんら変わらない。
とはいえARは今後、業務効率性の強化、コスト削減はもちろん、協業などの企業のプロセス、さらには労働者個人の暮らしにも大きな影響を及ぼすことは明らか。今後、企業間さらなる競争に注目が集まりそうだ。