2016年は「VR(バーチャルリアリティ=仮想現実)の年」と呼ぶにふさわしく、関連デバイスの発売が相次いでる。今後、デバイスやコンテンツがさらに充実すれば、スマートフォンのように一般普及に成功するかもしれない。
ただ、バーチャルリアリティは「ヘッドマウントディスプレイ(HMD)」を使う以外に、体験方法がほとんどない。開発者や一部ユーザーからは「視覚と聴覚だけでは、仮想現実を十分に感じることができないのでは」という意見も現れはじめている。
そんななか、最近では“全身”で仮想現実を楽しむための製品が用意されつつある。例えば、バーチャルリアリティ用スーツの存在だ。
米スタートアップ「AxonVR」は、VR用スーツ「Axonsuit」と、空中に浮かせた外骨格システム「axonstation」を組み合わせた、新しい概念の仮想現実システムを開発中だ。同システム内では、外骨格を通じて体を空中に浮かべた状態で、スーツが提供する仮想現実内で歩いたり、山を登ったり、運動場を走るなどの状況を体験することができる。
AxonVRの関係者は、「発想がかなり進んだ仮想現実システムであることは明らか(中略)ただ外骨格とスーツ、そしてディスプレイの組み合わせで、完璧な仮想現実を体験できるようにするには、まだ多くの研究が必要」としている。
AxonVRは、この仮想現実システムを通じて、災害状況を体験したり、災害発生時の適切な対処方法を学ぶという使い道を期待している。また、エクストリームスポーツを楽しみたいと考えながらも、事故を心配している人たちに、仮想体験の機会を提供することも検討中だ。
なお全身で刺激を得ることができる“全的な仮想現実”の実現には、ハードウェアとソフトウェアの高度な連動が不可欠なのだが、AxonVRシステムの性能に対する市場の評価は懐疑的だという。それに対しAxonVRの関係者は、「まだハードとソフトがスムーズに連動していない部分もあり、時々エラーが発生したりする。ただ、より技術が発展すれば、本当にリアルな体験を提供できるだろう」とコメントしている。
AxonVRと時を同じくして、英スタートアップ・テスラスタジオ(Teslastudio)は、テスラスーツ(Teslasuit)なるVR用スーツを開発している。このスーツは、衣服全体に均等に搭載された「神経筋電気刺激システム(neuro-muscular electrical stimulation)」を通じて、着用者に多くの感触を伝えることができるのが特徴となっている。純粋にVR用スーツの技術力だけを見れば、AxonVRのスーツよりも優れた製品だといえそうだ。
テスラスーツを着用したユーザーは、風や水、または熱や痛みなど、様々な感覚を仮想現実の中で感じることができるという。神経筋を刺激する電気システムには、腹筋を鍛えるためのトレーニングベルトなどに使用されている電気的筋肉刺激(EMS)や、陣痛を緩和するための電気治療などに使われる経皮的末梢神経電気刺激(TENS)が採用されている。
また、テスラスーツは仮想現実内での“動作の自由”を実現するため、ワイヤやモーターを使用していない。先に挙げた電気を使った方法のみで、感覚や触感を再現するように設計されているという。
なお現在、キックスターター(Kickstarter)を通じて販売されている、テスラスーツのプロトタイプモデルは2種類。装着された触覚認識システムの数に差がある。上位モデルのプロディジー(Prodigy)は、触覚認識システムが52個取り付けられており、下位モデルのパイオニア(Pioneer)は16個となっている。
テスラスーツは販売時に開発者キットもともに提供される。購入者は、「触覚エンジンライブラリ(Haptic Engine Library)」を使って、希望する特定の環境を自ら構築することが可能だ。