絶滅危惧種をVRで救う…キノボリカンガルーで豪大学が実験

大澤法子2017年8月31日(木曜日)

 オーストラリアのクイーンズランド州では、「キノボリカンガルー」と呼ばれるカンガルーの一種が絶滅の危機に瀕している。オーストラリアおよびニューギニア島にて生息が確認されているキノボリカンガルーは全部で10種。そのうち、オーストラリアに生息するのは、ルムホルツカンガルー(学名:Dendrolagus lumholtzi)、ベネットキノボリカンガルー(学名:Dendrolagus bennettianus)の2種だ。ルムホルツキノボリカンガルーはベネットキノボリカンガルーよりも分布数が少なく、クイーンズランド州により準絶滅危惧種(Near threatened)に指定されている。

 そんなキノボリカンガルーを絶滅の危機から救うべく立ち上がったのが、クイーンランド地方北部にて活動するキノボリカンガルーおよび哺乳動物の保護団体だ。今年5月、リーアン・イーノック(Leeanne Enoch)科学大臣よりその活動の方向性が認められ、クイーンズランド政府より1万オーストラリアドル(約86万円)が付与された。現在、地元のジェームズクック大学の情報技術アカデミーと連携し、世界初のVRロボット「キンバリー(Kimberley)」の開発を進めている。

 今回の研究プロジェクトの目標として、絶滅危惧種の保護のみならず、学生のSTEM教育の促進が掲げられている。キノボリカンガルーを絶滅の危機から救う第一歩として、学生を含む科学イベントに参加する人々とキンバリー間の交流の促進が狙いにあるようだ。脳内に人工知能が埋め込まれたキンバリーは、環境に関する知識を学習し、人間とのコミュニケーションに挑む。

 研究プロジェクトの参加メンバーであるデイビッド・ハドソン(David Hudson)氏は、研究の意義について、以下の通りコメントしている。

「学生はキノボリカンガルーを主体としたVR世界に没入可能であろう。バーチャル空間でのこうした体験は、キノボリカンガルーに関する理解向上につながるほか、科学分野の研究が絶滅危惧種およびその生息地の救済にいかに貢献可能かを思い知るチャンスを与えてくれるだろう」

 キノボリカンガルーはカンガルーの仲間でありながら、典型的なカンガルーとは生活スタイルを異にする。普段は木の上で木の実や果実を食べながら過ごしている夜行性の動物だ。そのため、リアルなキノボリカンガルーとの触れ合いを通じて、キノボリカンガルーに愛着を持つには限界がある。VRが人々のキノボリカンガルーへの愛着にどう影響を及ぼすのかに注目したいところだ。

 環境省版レッドリストによると、日本国内では2017年3月31日現在、3,634種(前回の調査時より38種増)の動植物が絶滅危惧種に指定されている。オーストラリアでの以上の取り組みは、決して他人事では済まされないかもしれない。

Photo by Johnathan Nightingale(via flickr)

大澤法子

記者:大澤法子


翻訳者・ライター。1983年、愛媛県生まれ。文学修士(言語学)。関心分野は認知言語学、言語処理。医療・介護分野におけるコミュニケーションに疑問を抱いており、ヘルスケアメディアを中心に活動中。人間同士のミスコミュニケーションに対するソリューションの担い手として、ロボット・VRなどがどのような役割を果たし得るかを中心に追及。

https://roboteer-tokyo.com/about