美容大国・韓国で増えるセルフビューティ族...家庭用ビューティーデバイス戦国時代

ロボティア編集部2019年10月17日(木曜日)

韓国で「セルフビューティ族」という新語が定着し始めている。それは、美に関する費用対効果や時間的コストをしっかりと見極める、新たな消費者層の登場を意味するものだ。美容大国で起こっている新たなトレンドを分析する。

韓国の各メディアで、「セルフビューティ族」という言葉がしきりに使われだしている。同様の意味合いで「ホームケア族」という言葉も耳にするようになった。セルフビューティ族とは、美容サロンやエステ、皮膚科クリニックなどに通ってプロのサービスを受けるのではなく、自宅でスキンケアなど美の追求にいそしむ人々を指す。

韓国でこうしたセルフビューティ族が増加している要因としては、まず一人暮らし世帯の急増が指摘されている。韓国の一人暮らし世帯は30年前に比べて10倍に増加。いまや4世帯に1世帯を占めるまでになった。大部分の人々にとって、特にソウルなど都市部での一人暮らしは経済的に簡単ではない。加えてここ数年、韓国社会は経済が停滞気味となっている。美容大国とされてきた韓国でも節約志向が芽生え、費用対効果に見合った“美のDIY”を選びとる人々が増えてきたのだ。

自宅で手軽かつ高度なスキンケアを可能にする家庭用ビューティデバイス、もしくはホームケア製品の相次ぐ登場も、セルフビューティ族の増加に拍車をかけている。というよりも、美容に関わる新しいライフスタイル、消費行動の登場に対して、狙いを定めた企業側が新製品を投入しているといったほうが正しいのだろうか。いずれにせよ、高性能な家庭用ビューティデバイスの増加とセルフビューティ文化の拡散は相関関係にある。

LG経済研究所などの調査によれば、家庭用ビューティデバイスの世界市場規模は2017年の段階で約5,000億円。今後、毎年約10%成長していくと見込まれている。韓国における市場の拡大も確実視されており、2017年に450億円ほどだった市場規模は、今年2018年には500億円を突破するだろうとの見通しが強い。現在、セルフビューティ市場というブルーオーシャンの攻略を図り、韓国ではコスメ・ビューティ機器メーカーだけでなく、家電製品に強みを持つ大手メーカーも続々と参入を開始している。

韓国で人気が高い家庭用ビューティデバイスといえば、LG社製のLEDマスク「Pra.L」の名が真っ先に挙がる。従来の製品は肌の表面のケアにとどまっていたが、同製品ではLEDが肌の内部まで刺激。皮膚の弾力を最大8倍にまで改善可能という触れ込みだ。実際、その効果についてユーザーからの評価が高く、昨年から今年にかけて大ヒット商品となった。

アモーレパシフィックの美容機器ブランドのメイクオンも、最近、超音波で基礎化粧品の吸収をサポートする家庭用ビューティデバイス「GEM SONO THERAPY」の販売を開始した。同製品は1秒間に300万回以上振動する超音波マッサージで、スキンケア効果を高めてくれる。主にマッサージ効果や保湿、弾力・顔色改善効果が見込めるというのが同社の説明である。

また2018年9月には、ビューティ&ヘルスケア関連機器メーカーのコリアテックが、クレンジング機器「ReFa」と、9種類のスキンケア用品のセットでの発売を開始した。同社は、累計で1000万個以上売れた美顔ローラー「ReFa CARAT」(通称:イ・ヨンエマッサージローラー)の開発元として有名だが、新製品ではデバイスとスキンケア用品をセットで提供することで、セルフビューティ族の需要を積極的に満たしていく狙いだ。同社のイ・ドンヨル代表は、「童顔皮膚(子どものようなすべすべ肌の意)を望む消費者が増え、ビューティデバイスへの関心が高まっている。既存の製品と今回の新製品を合わせれば、昨年の売上約150億円を突破し、約180億円を達成できるだろう」と自信をのぞかせている。

ここに紹介した以外にも、韓国ではさまざまな家庭用ビューティデバイスが登場し、互いにしのぎを削っている。傾向として、機能はエステティックなどの専門サービスにひけをとらないほど高性能化しつつ、価格は手頃、また自宅で短時間かつ簡単操作で利用できるというコンセプトが多いようだ。今後は、コリアテックのように、ビューティデバイスと化粧品のセット販売を仕掛ける企業も増えてくるだろう。

セルフビューティ族は中国でも増加傾向にある。調査会社 Euromonitorによれば、2009年から2014年までの中国国内家庭用ビューティデバイスの販売成長率は270%を記録しており、今後も急成長が続くとの予想だ。KOTRA(大韓貿易投資振興公社)の北京担当貿易官コン・ソヒョン氏も次のように指摘している。

「(中国では)消費能力が高い若い女性を中心に、顔に塗るコスメという領域を超え、自宅で肌を直接ケアできるホームビューティがトレンドとして定着している。彼女たちは価格ではなく性能に着目し、家庭で手軽に利用できる便利な製品を好む(中略)家庭用ビューティデバイスは、医療機器の特徴に加え、消費者ニーズや流行に敏感な消費財の特徴を同時に備えており、AIおよび顔・皮膚状態のデータ化技術など、様々な新技術と合流することで、より高い性能を誇るデバイスへと進化しており、美容機器と医療機器間の境界も崩れつつある」。

余談だが、韓国では「脱コルセット運動」という言葉もにわかに流行し始めている。これは、メイクなし、ボディラインの強調や補正をするような下着も着用せず、ありのままの自然体で生きるという価値観やライフスタイルを持った人々を指す言葉である。美容大国と呼ばれてきた韓国で、脱美容の動きが生まれているのは反動もあるのだろうか。「女らしさ」や「美しさ」の既成概念にとらわれず価値観の多様化が進んでいる証拠だろうか。なんとも興味深い現象である。

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※本記事はBeautyTech.jp掲載の『韓国で急増中の「セルフビューティ族」、美容家電市場はどこまで広がるのか』を改題・再編集したものです。