6月7日、日本経済新聞はNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが2020年に一部の地域で5G(第5世代移動通信システム)サービスを開始すると報道した。大手3社の投資総額は5兆円規模に達する見込み。
2020年の東京五輪・パラリンピック開催を控え、5Gの利用が一部で開始され、徐々に活用範囲が拡大していく流れだ。なかでもドコモは、2023年までに全国の商用化を目指しているとし、各界から注目を集めている。
なお国際的にも、今年中には5G規格概要が確定するとみられており、大手3社は5Gサービスを提供する環境の整備に約1年程度を見込む。全国基地局部品、サーバ、専用システムも、5Gに合わせて整備される流れだ。
「G」という言葉の意味は、英語の「Generation(世代)」を指す。1Gは第1世代、2Gは第2世代、3Gは第3世代、4Gは第4世代、そして次世代の通信規格・5Gは第5世代となる。
1Gはアナログ方式の通信規格、2Gはデジタル方式になり、メールやネットの利用に対応した規格だ。ポケベルやPHSはこの時に登場している。さらに高速化された3Gでは、音楽やゲーム、動画サービスが開始され、iPhoneやGoogle Nexusなどのスマートフォンやタブレットが本格的に登場し、ここから「モバイル時代」へ突入する。そして、さらに高機能化した現在主流のLTE-Advanced方式に代表されるのが4G。5Gは、その次の世代の通信方式となる。
5Gの特長は主に3つ。まず「超高速」であることがあげられる。通信業界ではすでに、2014年から「4Gよりも100倍以上速い通信技術」として注目されている。ふたつめ目は、超低遅延の実現だ。これによって、ロボットなどの精巧な操作や制御をタイムラグなし・リアルタイムで可能にするとされている。
最後に、ネットワークへの多数同時接続があげられる。5Gは、従来の100倍近い個数の端末へ同時通信が可能。現在、自宅でインターネットに接続しているのは、せいぜいスマホやパソコン、テレビくらいだ。スマホでメールやSNSを利用したり、音楽や動画を楽しむ分には現状の4G通信速度でそこまで不便さは感じない。しかし、今後は冷蔵庫や洗濯機など、あらゆる家電機器がネットワークに接続=IoT化が急速に進めば、トラフィック(通信回線を利用するデータ量)の急増は避けられない。そこで、5Gの出番となる。
自動走行車の商用化も5Gなくしてあり得ないだろう。例えば、急に他の車が割り込んできたときに急停車を余儀なくされるケースが想定されるが、その場合、走行中に管制センターや周辺機器と絶えず無線通信をやり取りできる、途切れることのない高速通信が必要不可欠だ。なお5Gを利用すれば、0.001秒の速度で自動車同士間のデータをやり取りすることができるとも言われている。
その他にも、医療やスポーツ、防衛訓練など多領域で活用が有力視されているVR(仮想現実)も、5Gが必須となってくる。
たとえば、病院に5Gの環境を整えれば、手術する患者の部位を高画質ホログラム映像として映し出すことが可能だ。360度どの角度からも見ても共有することができ、あらかじめ手術方法を議論することにも役立つ。同じ環境を整えた病院があれば、海外にいる医者とも連携がとることができ、医療の劇的な向上が見込まれる。
このような精密な作業を行うためには、短時間に多くのデータを途切れることなく安定して伝送し続ける必要があり、従来の4Gでは難しいとされてきた。なお、5Gは1秒に送れるデータ量が、4Gの10倍以上とされている。また、映像の高解像度化やCGによる立体化など、コンテンツのリッチ化においても、衛生放送や光ケーブルによる伝送はコスト面を含めて限界があるため、5Gによる解決が大いに期待されている。
韓国では、2017年2月から平昌(ピョンチャン)で開催される冬季五輪に合わせ、最新の5G技術を公開すると提言している。平昌冬季五輪の公式スポンサーであるKTは、超高精細映像をリアルタイムで伝送するサービス「シンクビュー」や様々な角度で試合を観戦できる「リアルタイム360度バーチャルリアリティ(VR)」、「超高画質の遠隔ホログラムサービス」など5G技術を取り入れた先端スポーツ中継サービスを提供する見通しだ。
「シンクビュー」では、超小型カメラに移動通信モジュールを搭載し、5Gの基盤システムであるアクティブアンテナを通じて超高画質な映像をリアルタイムで配信する。先日、ボブスレーの競技で行ったテスト視聴では、時速120km~150kmで駆け巡る選手視点での臨場感溢れる映像を提供した。
一方、「リアルタイム360度バーチャルリアリティ(VR)」ではタブレットやスマートフォンを通じて、会場だけでなく選手の控え室やインタビューまで同じ空間にいるような臨場感を提供する。
期待が高まる一方、5Gが仮に商用化されたとして、いきなり全てのネットワークが5Gとなるわけではない。5Gは電波の到達距離が短い高周波帯域を使うことから、当分の間は4Gを併せて使用することが予想される。 アクセスが集中しやすい都心には5G、市外地域は4Gを並行して使用するなど、5Gの利用にはある程度の条件が見込まれている。
米大手調査会社IHSが最近発表した報告書によると、5G市場の経済規模は2035年には12兆3000億ドル(約1382兆円)、連携産業の市場規模は3兆5000億ドル(約393兆円)に達する見通し。また、サービスを通して新たに創出される雇用だけでも、2200万件に達する見込だという。
現在、世界では多くの企業が初となる5Gの商用化に躍起になっている。しかし、スマートフォンが3Gや4G普及の起爆剤となったように、新しいネットワークが誕生しても明確なユーザーメリットがなければ普及には至らない。5Gのネットワークの研究開発は着実に進んでいるだけに、今後はそれを生かせる身近なコンテンツやサービスをいかに生み出すことができるのかが「5G競争」の争点となりそうだ。
Photo by Kārlis Dambrāns