世界各国で問われる人工知能の知的財産権

ロボティア編集部2016年6月16日(木曜日)

 昨今のめまぐるしい人工知能(AI)の発展を受け、法整備が急務となりそうだ。日本の現行の著作権法は、法律で保護する対象を「思想または感情を創作的に表現したもの」としている。つまり、人間が創作した作品や、人間がAIを利用して創作したものには著作権を認めている。一方、AIが自律的に創作したものは保護の対象とならないというのが一般的な解釈だ。

 そのため、人工知能がつくったものの権利を改めて精査すべきという動きがでているが、その中心となっているのが知的財産戦略本部(本部長・安倍晋三首相)だ。5月9日には、「知的財産推進計画2016」が公開され、人工知能と知財制度の在り方を検討する体制を整えていく方針が明らかにされた。以下に、一部抜粋する。

「デジタル・ネットワークの発達は、地理的・空間的な制約を解消し、あらゆる情報がデジタル化されて大量に蓄積され、誰もがそれにアクセスすることを可能とした。さらに、IoT、ビッグデータ(BD)などの技術革新は、デジタル・ネットワークにつながる人や物を増大させ、全世界で生成・流通する情報量の爆発的な増大と情報の内容の多様化を起こしている。そこに人工知能(AI)を結び付けることにより、大量の情報を集積し、それを組み合わせ、解析することで付加価値を生み出す新しいイノベーションの創出が期待されている。

 他方で、大量に生成・収集される情報の中には、コンテンツなど著作権で保護されている情報が混在することが想定されるため、情報の種類、利用の態様、新しい情報の創出への影響などを踏まえつつ、イノベーション創出と知財保護のバランスを図っていくことが必要である。

 また、更なる技術革新により、人工知能によって自律的に生成される創作物(以下「AI創作物」という。)や物の形状を完全に再現できる3Dデータ、センサー等から自動的に集積されるデータベースなど新たな情報財が生まれてきている。AI創作物が人間の創作物と質的に変わらなくなった場合にAI創作物を知財制度上どのように取り扱うかなど新しい時代に対応した知財システムの在り方について、検討を進めていくことが必要である」

(中略)

「デジタル・ネットワーク技術の更なる発展により、人間が創作した情報を幅広く保護対象とする著作権法の根底にある『創作性』という概念では説明のできない価値ある情報が出現してきている。

 例えば、人工知能から生み出される音楽や絵画、人間の動き、物の挙動といった現実世界に起きていることを機械的に記録するビッグデータなどが想定される。このような新たな情報財は、それを活用した新しいイノベーションや人間社会を豊かにする新しい文化を生み出す可能性を有しており、我が国としてその創出・利活用に積極的に取り組むとともに、それに必要な知財システムの在り方について検討することが必要である」

 人口知能と知的財産権に関する問題は、同分野に対する投資にも影響を与えうる。もし権利が認められなければ、不正コピーなどが蔓延することになり、投資した側は利益を享受できない可能性がある。

人口知能と知的財産権
photo by fink-patent

 一方、韓国では人口知能がもたらすリスクという観点からも、法的議論が必要という声が上がっている。

 韓国のソフトウェア政策研究所(SPRi)は13日、「人工知能と法的争点」という報告書を通じて「人工知能の著作物」の権利保護に関する法改定の必要性を主張した。

 韓国の著作権法によると、著作物とは「人間の思想と感情が表現された創作物」とされている。また法人等企業に従事する者が創作した著作物に関しては、法人などの組織が著作者=法人著作となる。ただし、現行法上、人工知能が作り出したものについては、いかなるものも著作物とみなされない。当然、著作権を得ることも難しいとされている。

 著作権がない=人工知能が生み出した“もの”を誰もが自由に利用できてしまえば、法律的な安定性が危惧されると、報告書は指摘する。

 例えば人工知能に書かせた記事は、あたかも人間が書いたように拡散することができる。そこにもし虚偽の事実が書かれたとしても、罪を罰すべき対象がいないことになる。このような観点からSPRiは、現行法上の曖昧な「著作物」および「著作権」に関する定義に警鐘を鳴らしている。

 続いて、SPRiが例を挙げているのは、人工知能がソフトウェアを開発した際の特許権問題だ。人工知能により開発されたソフトウェアは、人間が開発したものよりも安定性など定評があることから、昨今ではあまり珍しくないとされる。ただ人工知能が開発したソフトウェアにおいて、どのようなエラーが起こり得るのか想定するのは簡単ではない。万が一、それらエラーによって重大な事態に発展した場合、こちらも責任の所在が不明瞭だ。

 韓国での特許においては、発明した人が特許を受ける「発明者主義」や、ある企業の従業員など発明の企画を立てたのが法人であったり、職務上の行為としてなされた場合、開発にあたった従業員、または会社の所有とされる「職務発明制度」が一般的である。

人口知能Google
googleのAIが描いたとされる絵

 しかし、これらの制度にも人間以外の発明については規定がなく、人工知能が発明したものについては、どのように処理してよいのか法的根拠がないに等しい。

 現在は人間が人工知能を“管理”できているからこそ、人工知能そのものに対する知的財産権は与えられていない。翻って言えば、人工知能を「道具」として扱う限り、所有者に責任と権利を与えることが一般的であろう。しかし、人間の手がからなくなったらどうだろう。SPRiは近い未来、人工知能の力だけで創作や発明が可能になると予測。創作者と使用者の間のトラブルに備え、法改定を進めていくことが合理的であると主張している。

 やがて迫り来る人工知能と人間の共存社会のために、人工知能と関連する諸権利、および法制度の枠組みは真摯に見直されるべき時点にきているようだ。