世界で徐々に増える農業を支える人工知能とロボット

ロボティア編集部2016年7月8日(金曜日)

 先月、九州各地を襲った大雨は、1時間の雨量で6月の過去最多を更新した。熊本県では、豪雨により河川が氾濫し、ハウスの倒壊や田植え直前の田んぼに土砂が流入するなど大きな被害が出た。震災からの復興道半ばで、豪雨被害が追い打ちをかけた形だが、農業現場の落胆は大きい。

 このような気候変動による農業への影響が懸念されているなか、さらに安定した食糧供給システムを構築するための手段として農業 のIT化に期待が高まっている。

 近年では、ビッグデータ、ドローン、ロボットなど最新のテクノロジーを駆使した新しい農業が生まれているが、特にデータを活用した作業は様々な効果を発揮している。

 アメリカ航空宇宙局(NASA)の人工衛星であるランドサット(Landsat)は、撮影した上空の画像を受信して地球表面を観測。環境データを提供する。このような技術は、とりわけ発展途上国における圃場整備などへの応用が期待されている。というのも、発展途上国の政府および銀行は、農家への緊急援助や融資を決定する際の判断材料となるデータが圧倒的に乏しいという問題を抱えているが、その解決につながる可能性がある。

 例えば、インドで干ばつが発生した際、地域によって被害の程度が異なるというのは想像に難くない。しかし、同じ地域内でも農家ごとに被害が異なってくると、災害の全体像を把握するのは難しく、対応も複雑になる。

 ただ上に挙げたような技術を利用すれば、自然災害に備えるのはもちろんのこと、万が一の災害時にも、被害状況を早急に把握することができ、地域ごとの比較・分析も可能となる。結果、銀行や政府が適切な資金を農家に与えられるということにつながる。現に、ミシガン州を拠点とするベンチャー企業 ファームログス(FarmLogs)社は、衛星画像、気象データ、IoT デバイスなど様々なデータを基に、作物の成長や健康状態、土壌の栄養状態、収穫量の予想など様々な情報を農家に提供するサービスを始めている。

farmlogs
photo by farmlogs

 同社のサービスはアメリカの農家の3分の1が利用するなど人気を集めている。また2015 年 8 月には、農業機械に接続することで、より細かい農作業の記録が可能なIoTデバイス 「FarmLogs Flow」を発表した。

 また、厳しい農業情勢のなかで農業生産の高品質・低コスト化が強く求められている昨今、作物の特徴を捉えて農作業を行うロボットが登場している。例えば、作物の葉を健康なものとそうでないものに分類。その写真をコンピューターに読み込ませることで、病気の葉と健康な葉の違いを学習させることができる。

 例えばこのような研究は、米ペンシルベニア州にあるペンシルベニア大学生物学者のデヴィッド・ヒューズ准教授などが、26種の病気に感染した14種の作物を利用して行った。研究チームはコンピューターに5万を超えるイメージを読み込ませ、学習させた。その結果、コンピューターは新たに入力される葉の健康状態を、99.35%の精度で識別できるようになったという。

 研究チームは、開発中のアプリであるプラントビレッジ(PlantVillage)を、人工知能によってさらに強化しようとしている。PlantVillageは、世界中の農民が病気にかかった作物の写真を掲載し、専門家が診断を行うというフローを可能にしたアプリだ。掲載された写真は「病気にかかった葉の画像データ」として、人工知能に学ばせるためのデータとして確保する狙いもある。

 一般的に作物の成長を妨害する病気の原因は、細菌やカビと思われがちだが、実はほとんどがカルシウムとマグネシウム不足によるものであったり、塩分や暑さなどの生理的ストレスによるものだという。しかし、病気の通知を受けた農家が、害虫駆除や除草剤などピント外れな対処法を行い、お金や時間をムダにしてしまう現状がある。そうした作物の病気の本当の原因を、迅速かつ正確に人工知能が特定してくれるようになる未来もそう遠くはなさそうだ。

LettuceBot
photo by Blue River Technology

 一方でアメリカでは、トウモロコシや豆、綿畑だけでも、年間およそ14万トンもの除草剤が使用されており、この浪費問題が懸念されている。ブルーリバー・テクノロジーズ社(Blue River Technology)は、「レタスボット(LettuceBot)」と呼ばれるロボットで、このような問題に対する解決策を見出している。レタスボットは、一見平凡なトラクターに見えるが、実際はこのトラクターには機械学習エンジンが搭載されている。

 レタスボットは1分あたり5000個ずつ、花つぼみの写真を撮影。コンピュータ・ビジョン技術を用いて、生育し始めたレタスのかたちや間隔を認識し、6mm以内の誤差範囲で雑草を確認して除草剤を散布する。また、混み合い過ぎた箇所のレタスにも、成長が好ましくないと判断し、除草剤を散布する。これが、すぐ隣の残された芽に適度な濃度の肥料となって、生長を助けるというしくみだ。いまだ開発途中ではあるが、農作物の識別は人工知能に学習させることで、十分に可能だと言われている。

 同社は、「いままで間引き作業や除草作業には、人手や農薬を利用することが多かったが、このレタスボットを利用すれば、化学物質の使用を90%削減できる」と説明している。このシステムは現在、アメリカで毎年生産されるレタスの全体のうち10%を供給する畑で使用されている。

Photo by NASA