人工知能(AI)を搭載したロボットが、人間の労働を代替するとの予想が相次ぐなか、その影響が最も大きいだろうとされているのが、製造業の分野である。
ここ数年、中国では製造業分野へのロボット導入が進んでいる。その主な理由は、人件費の高騰による製造原価上昇を抑えるためだ。
中国最大の軽工業密集地域・東莞では、人件費の上昇を抑えるため、労働者の代わりに人工知能を備えたロボットの導入を検討する企業が増えはじめている。2014年9月以降、この地域一帯のメーカーは、合計108億元(約1811億円)を投入し、約8万人の労働者を代替したと中国メディア「財經網」は報じている。
また、浙江省のとある労働密集型工場地区でも、2013年以来、約75.7%の労働者が“削減”されたという。そこに取って替わったのは、AIを搭載したロボットだったという。
現在、浙江省の製造業密集地域には、約200万人の熟練労働者だけが残っている状況だ。そのような現場の変化について、「各メーカーは人件費の過剰支出を解決し、労働者は単純労働から抜け出すことでウィン-ウィンとなった」との現地メディアの分析もある。
一方で、中国の人工知能&ロボット事情を、過大に評価すべきではないという論調もある。中国の有力メディア・「網易財經」の付設研究所「网易研究局」は、昨年、中国内で運営されているAI関連の代表的な企業27所が稼いだ収益は、約40億元(約670億円)に過ぎないとした。そのうち、“億元”以上の収益を得た企業は、わずか7つであり、3つの企業は、マイナスの営業利益を記録するにとどまったとも報じている。また网易研究局は、技術が発展したとしても、人工知能ロボットが代替できる業務は、単純な労働・労務職にとどまるとの見解も示した。並行して、複雑な知能・精神労働分野では、まだ人間が活躍する必要があるとも分析している。
それら細かい現実を無視するかのように、中国では人工知能産業への注目が高まっている。その正体を一言で説明するならば、投機熱であり、「AI開発スタートアップがベンチャー投資先として有望であると信じられているため」と、网易研究局は分析している。
実際、過去4年間にわたり、全世界のAI産業は年平均62%の急成長を維持している。特に昨年12月には、中国内のAI関連スタートアップの数が約120に達し、そのうち80に約33億元(約552億円)が投資されたという。
このような状況に対し、网易研究局の杨泽宇(ヤン・ゼェアユー)研究員は、「AI分野は時間とコストを長期間にわたり投入しなければならない産業。短期間の成果を予測することはできない」とし「現在、最も明確な事実は、全世界のAIの技術力は、よちよち歩きの段階にあるという点である」と指摘した。
ヤン研究員また、「そのため、人工知能が人間の労働力を代替するというのは、杞憂に過ぎない。AIの発展は唯一、人間が自らのスキルをアップグレードする機会を提供するにとどまるだろう(中略)AIの台頭は、仕事が機械に奪われるという“危機意識”を持ってくる役割を果たしているだけだ」と付け加えた。
この手の統計データや論争は、昨年、今年と世界中からひっきりなしに登場している。今後は数字だけではなく、実際に現場でどのような変化が起こっているか、そこで変化に巻き込まれた人々が現在、どのような状況にあり、何を思っているのかなど具体的なデータを集める必要が出てきているのかもしれない。
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