海水と淡水の水質保全でAI活用...アイルランドの大学とIBMがIoT導入で実現

ロボティア編集部2017年5月18日(木曜日)

 アイルランドのダブリン・シティ大学(DCU)とIBMが、水資源の保全を支援するために、モノのインターネット(IoT)技術を活用する共同研究開発のパイロット計画を進めるとした。これは、3月22日「世界水の日」を契機に公表された計画だ。

 この産学共同研究プロジェクトは、同大学のナショナル・センター・フォー・センサー・リサーチ(National Centre for Sensor Research)を通じて、DCU水研究所(Water Institute)が保有する環境センシングにおける専門知識と、IBMのコグニティブ(=認知)IoT環境ソリューションの取り組みを結び付けるもの。このパイロット計画の一環として、IBMはDCU水研究所の産業諮問委員会(Industry Advisory Council)へ参加する。

 この共同研究において注目すべき点は、DCUの次世代センサー技術にある。同センサーは、水質の重要な側面を、すでに実用化されている商業的な技術よりも大幅に低いコストでモニターする能力を持ちうるからだ。将来的にIBMの環境IoTプラットフォームと組み合わされたとき、グローバル規模の水管理において、きわめて重要なメリットをもたらす可能性があると期待されている。

 IBMの機械学習(マシンラーニング)およびコグニティブIoT技術を組み合わせた DCUセンサーは今後、天然資源を保全し、淡水および海洋環境の両方で、水質など環境管理問題に効果的に対処することを目指す。

 IBMリサーチのエンジニアであるハリー・コラー氏は、「今後 数年間のうちに、IoT技術は環境や天然資源の保全支援に重要な役割を果たすものと確信しています。IBMリサーチでは、DCU水研究所と共同で水管理の未来へ向けて、IBMのコグニティブIoTの環境モニタリングおよび管理における専門知識を活用することに大きな期待を寄せています」と述べている。

 IBMのコグニティブIoT技術は、さまざまな環境下で、品質と信頼性の高いデータ収集を保証するセンサー・プラットフォームの深層学習(ディープ・ラーニング) 能力を提供する。IoTベースのセンサー・プラットフォーム、またはセンサー自体に組み込まれた高度な分析機能は、わずかな環境変化を早期に発見する役割を果たし、公衆衛生・安全または修復作業にとって極めて重要なポイント のモニタリングに寄与する。

 同課題には、自然または人工、あるいは気候の影響による水質の変化が含まれる。センサーは、環境の変化をよりよく理解するために必要な、物理的、化学的、生物学的パラメーターを測定する。その応用として考えられるのは、湖沼、河川、河口、海洋生態系に影響を及ぼす農業や雨水の排水などの汚染源の管理改善だ。

 IBMとDCUはこれらのパイロット計画をアイルランドと米国において実施する。なお、ニューヨーク州のジョージ湖では、IBMが参加・進行中の「ジョージ湖におけるジェファーソン・プロジェクト」(Jefferson Project at Lake George)と並行して、実施される予定だ。

「IoTやITは、アイルランドが非常に力を入れている産業です。主な理由として、能力が高く、高いスキルを持った労働者が多くいるからです。このような労働者の多くがアイルランド出身である一方で、世界中からも有能な人材が集まってきています。それは、アイルランドが英語を話す国であること、EU(欧州連合)の確固とした加盟国であること、また、安全且つ、優れた教育制度と医療制度により、すばらしいワークライフ・バランスが得られる、ことなどが魅力になっているからです」(アイルランド産業開発庁日本代表、デレク・フィッツジェラルド氏)

 ちなみに、世界水の日(せかいみずのひ)は、1992年のブラジルのリオデジャネイロで開催された地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)における「21世紀へ向けての行動計画(アジェンダ21)」の採択、また1993年の国際連合総会で決議によって定められた。

photo by Water Institute DCU