AIが独創的な絵を描く!!...GANを超える「敵対的創造ネットワーク(CAN)」を活用

河鐘基2017年7月18日(火曜日)

 ディープラーニング、およびディープニューラルネットワーク(Deep Neural Networks、DNN)がアートを学び、高水準な作品を量産しはじめているとの話題が報じられた。

 機械学習=マシンラーニング(machine learning)のひとつに含まれるディープニューラルネットワークは、人の脳のように微細に繋がれた複数の仮想神経によって、様々なデータを追跡・分析。独自の判断基準を築いたり、新しいデータを生成する技術だ。

 そのディープニューラルネットワーク技術が、現在、アート分野に適用されつつある。例えば、米ニュージャージー州ラトガース大学の「アート&人工知能研究所(Art&Artificial Intelligence Lab)」は、ディープニューラルネットワーク技術を活用し、画家のように絵を描くアルゴリズムを開発。実際にアート作品を制作し披露している。

 同研究所で創作された作品は、最近、米ジョージア州アトランタで開催された「コンピュータ創造性国際会議(International Conference on Computational Creativity)」の期間中に、一般来場者に紹介され好評を得た。

 研究所側は報告書で「科学者が人工知能を活用しアート作品を制作しており、最近では著名作家と比較して大差ない高レベルな作品をリリースしている」と説明している。

 現在、研究所が使用しているAI=ディープニューラルネットワークは、「敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks、以下GAN)」というディープラーニングアルゴリズムを改良したものだ。名称としてはGANと区別され、「敵対的創造ネットワーク(Creative Adversarial Networks、以下、CAN)」と呼ばれている。

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 同AIは、これまでアーティストたちが描いてきた絵画のスタイル(paingting style)、点描(Pointillism)、カラーフィールド(Color Field)フォーヴィスム(Fauvism)、抽象表現主義(Abstract Expressionism)などを習得していると明かされている。すでに1119人の画家が描いた8万1449点の作品スタイルなどを学習・習得済みだという。研究所側は「教材として使用した作品は、WikiArtを通じて一般に公開された著名なもの」と説明を付け加えている。

Photo by Rutgers university (上:CANが高評価した人間の作品 下:低評価作品)

 CANは、それら作品を学習し自ら評価を下した後、自分が必要だと感じたスタイルなどを使用して、どの流派にも属さない「自分だけの絵」を描く。というのも、他の作品が使用した技法、スタイルなどを模倣しないようにプログラムされているからだ。つまり、アート作品に欠かすことができない「ユニークネス」を追求するように設計されていることになる。

報告書は、「既存の技法とスタイルから脱した新しい技術とスタイルで、可能な限り少ない数の特徴ある美術作品を作り出している」としている。ジャンルとしては、肖像画、風景画、宗教画など多様な領域が含まれている。

 興味深いのは、CANがダ・ヴィンチが描いた傑作「モナリザ」を高く評価していないというエピソードだ。技術面で、他の作品と比較して序列が低いと判断している。一方、人工知能が最も高い評価を下しているのは「抽象画」だ。(上画像参照)

 実施されたアンケート調査では、回答者の85%がCANの作品を見て「人が描いた絵」と判断したそうだ。またCANが描いた絵全体を対象にしたアンケート調査では、53%が「人が描いた絵」と答えている。これはGAN35%より18%も上回る結果となった。なお世界的なアートフェア・アートバーゼル(Art Basel)に出品された作品を対象に実施されたアンケート調査の結果では、GANは41%を記録しているが、その結果を見てもCANが描いた作品がより人間的であると判断されうるということができそうだ。

 余談だが、調査参加者は人間の書いた絵画の判断基準として「意図的(intentional)」、「視覚構造的(visually structured)、「コミュニケーション的(communicative)」、「インスピレーションを刺激する(inspiring)」などを挙げという。

 報告書は、「人工知能はまだ傑作を生み出していないが、人間の作家たちと比較して遅れをとらない創作能力を示している(中略)今後の技術発展に伴い、アート界全般に及ぼす影響は非常に大きい」と予測を示した。

 今後、人工知能が創造的な芸術作品を作成できるようになれば、プロの画家はもちろん、アマチュア作家にも大きな力になると予想されている。一例では、コンピュータが絵を描く授業を支援してくれるというものがある。また現段階では画像にとどまっているが、今後は映像技術へのAIの適用も期待されはじめている。

 人工知能はすでに、ゴッホやピカソなど有名作家の技法を模倣して、その延長線上で新しい作品を描くことは容易にこなせる水準にまで達している。ただ一方で欠点もある。それは偉大な画家たちのように、独創的な方法を駆使したり、新しい技術、スタイルなどを生み出せないという点である。

 とはいえ、人間固有の力として評価されてきた「インスピレーション」を機械が代替しうる時代が近づいているのもまた確かだ。新しい価値を生み出してきた人間の想像・創造力=インスピレーションの正体は一体何なのか。AIの成長とともに、再定義が必要になる時が刻一刻と迫っているのかもしれない。

Photo by Rutgers university

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。