CGキャラ作成AI「ディープミミック」が再現・生成する完璧な人間の動き

河鐘基2018年4月23日(月曜日)

コンピュータグラフィックス技術(以下、CG)やアニメーション技術により生み出された映画・ゲームのキャラクターは、年々その動きがリアルになり、昨今では実写と見間違うほどに再現度が高くなっている。今回、その自然な動きをさらに効率よく描写・生成するための、新しいディープラーニング技術が公開された。

リリース「Making computer animation more agile, acrobatic — and realistic」を通じて研究成果を報告したのは、バークレー人工知能研究所(以下、BAIR)の研究者たち。彼らは、自ら開発した人間の動作を学習するディープラーニング・アニメーションアルゴリズムを、「ディープミミック(DeepMimic)」と名づけた。

資料によれば、これまで使用されてきたデジタルアニメーション技法においては、ウォーキング、ランニングのような異なる動作を個別にカスタマイズして制作するか、単一の汎用アルゴリズムを使うという手法が採用されてきた。しかし、それらの方法にはそれぞれ長所だけではなく短所が存在した。まず個別にカスタマイズする手法は、リアルかつ自然な動作を再現できるものの制作に時間がかかり効率が悪いという課題があった。一方、汎用アルゴリズムを使用すると制作が比較的容易になるが、それぞれの動作のクオリティーが落ちるという難点があったという。

BAIRの研究者たちは、ディープミミックにそれらふたつの手法の長所を採用。それぞれ異なる複数の動作データを学習させることで、“未経験”だった動きをコンピュータがより自然に再現できるようになったとしている。

「研究者陣は、走る、投げる、跳ぶはもちろん、バック転、側転、キックアップなど、25種類以上の動作技術を盛り込んだモーションキャプチャーを参照・データとした。そのモーションキャプチャデータをコンピュータアルゴリズムに入力した後、ディープミミックと呼ばれるシステムに、1ヶ月間にわたり各動作の技術を学習させた。コンピュータは、各技術をよりリアルに模倣するために数百万回の試行を繰り返した。試行錯誤を学び、モーションキャプチャデータと比較しつつ、各動作をより人のそれに近づけていった…」(前出、リリース)

ディープミミックが既存のアルゴリズムと異なるのは、動作全体を連続的に再現するように学習するのではなく、動作のステップ(流れ・順番)をそれぞれ分割して学習した後、複数のステップを組み合わせて一定の動作を再現するという点だ。

「(ディープミミックは)空にいるステップをはじめ、様々な段階を動作学習の出発点とした。各ステップを個別に学習し、後でそれら繋ぎ合わせることができた」(前出、リリース)

ディープミミックは、以前に学習したことのない動き(例えば、険しい地形でのランニング)のような動作も、再現できることが分かったと研究者は伝えている。また今後、ゲームキャラクターや「仮想スタントマン」の動作再現・生成に使用できると期待を寄せている。

現在、動画を生成する「ディープフェイク」や、絵画作品や新たなイメージを生み出す「GAN」などが、AI技術の新たなトレンドとして浮上している。人間の動作を模倣・生成してデジタル世界で再現するディープミミックも、いずれその列に加わるかもしれない。なお、人間の動作を人工知能に学習・生成させ機械上で再現するというコンセプトは、産業用ロボットなどハードウェアの研究領域にも応用されていく可能性がある。機械は人間の動きをどこまで理解・再現することができるのか。その未来がとても楽しみだ。

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河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。