誰でも使えるGoogleのAI開発ツール「AutoML」...3つの利点と欠点とは何か

ロボティア編集部2018年1月29日(月曜日)

人工知能(AI)によって新たな人工知能を生み出す技術が開発されつつある。Google(グーグル)の「AutoML」は、その代表格である。AutoMLは学習した親(もしくは教師)となる人工知能が、何も知らない子となる人工知能を教える技術だ。そうした関連技術が発展していけば、人が人工知能を学習させる世界から、人工知能が人工知能を教える世界に移り変わっていくかもしれない。

AutoMLには、最新の機械学習技術である「転移学習」(Transfer learning)と、「ラーニング・トゥ・ラーン(Learning2learn)」が使われている。

転移学習とは、特定の用途のためにつくられたAIを、他の用途にも使うことができるようにする技術だ。例えば、囲碁のために作られたAIを、チェスでも使えるようにするというものである。これまでの人工知能は、特定の用途でしか利用できなかった。しかし、転移学習が発展すれば、囲碁AIがチェスAIに変化したり、もしくは人間を認識する方法を学んだ人工知能が自律走行車を運転することができるようにかもしれない。

なおラーニング・トゥ・ラーンはもともと、教師が新しいことを学び、それを学生に教える教育手法を意味するが、機械学習の領域では人工知能が強化した自らのアルゴリズムとニューラルネットワークを他の人工知能に伝達する手法を指す。

AutoMLをはじめ、それら人工知能を生み出す人工知能の存在は、学習および商用化に苦労を重ねている企業の悩みを解決してくれる革新的な技術になる可能性があったが、研究や開発が一筋縄ではいかず、実際に実務やサービスに採用するのは難しかった。そんな背景のなかで、クラウドコンピューティングを使ったAutoMLの商用化が開始された。

Googleは1月17日、自社クラウドプラットフォーム(GCP)を通じて、AutoMLを利用できるサービス「クラウドAutoML」を公開した。クラウドAutoMLはGCPを通じて、企業がより簡単にAutoMLを自社AI開発に活かせるようにするサービスだ。

クラウドAutoMLは、既存のオープンソースベースのAIライブラリや、クラウドベースの人工知能APIと比べて、3つの利点を有していると分析されている。

最初の利点は、「人工知能モデルの優れた精度」だ。クラウドAutoMLは、Googleが事前に学習させた人工知能モデルを活用して企業の人工知能を学習させるため、より正確な方向に人工知能を学習させることができる。企業にAIを学習させる専門家がいなくても、比較的容易にAIモデルを作ることができる。

ふたつめの利点は、「より高速な開発スピード」だ。クラウドAutoMLを活用すれば、オープンソースやAPIを活用するよりも早く人工知能モデルを開発することができる。サービスに使う単純なモデルは数分で作成することができ、完全な人工知能モデルは一日か二日であれば完成することができるとされている。これまで、数週間、長ければ数ヶ月かかるとされてきた開発期間を大幅に短縮することができる。

3つめの利点は、「インターフェースの使いやすさ」だ。クラウドAutoMLでは、難しいテキストベースのプログラミングインタフェースではなく、直感的に理解しやすいグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)を通じてAI開発を進めることができる。基本的なプログラミングの知識は必要であるが、Python、Rなど高度なプログラミング言語を完全に熟知していなくても、人工知能の開発を始めることができる。

一方、欠点もある。ひとつは、コンピュータビジョン(見る能力)に関連する人工知能だけつくることができるという制限だ。クラウドAutoMLは、現在「クラウドAutoMLビジョン」という名称で公開されている。この技術を使えば、人や物を区別したりするAIを開発することはできるが、チャットボットや翻訳AIを開発することはできない。

GoogleのクラウドAIチーフサイエンティストであるFei-Fei Li氏は「クラウドAutoMLは今まさに始まったばかりの技術。現在は、コンピュータビジョン関連機能のみ公開されているが、今後、自然言語処理や音声認識など他の機能を備えたAIも開発できるように、クラウドAutoMLを発展させていく」と述べている。

もうひとつの欠点は、誰でも利用できるサービスではなく、Googleに申し込みをした後に利用することができる「アルファテストサービス」であるということ。なお申込みを済ませば、デフォルトのサービスは無料で利用できるが、Googleが提供するさまざまな機能を追加すると個別に料金がかかる。

GoogleのクラウドおよびAI開発を総括するJia Li氏は、「アーバン・アウトフィッターズ、ディズニー、ロンドン動物学会などAI技術とそれほど関連がない流通、メディア企業、学界でも、クラウドAutoMLを活用して人工知能を開発・商用化している」とし、「クラウドAutoMLが普及すれば、開発人材がいない企業でも優れたAIを迅速に開発できるようになるだろう」としている。

クラウドAutoMLが商用化されることによって、企業が人工知能を開発する際に利用することができる選択肢は、「直接開発」「オープンソース」「人工知能API」に「AutoML」を加え四つに増えた。人工知能を直接開発したり、オープンソースを利用すれば技術を内製化できるが、多くの人材・コスト・時間が必要となる。一方、APIやクラウドAutoMLを利用すれば効率化できるが、技術とインフラに依存させられてしまうという事態も起こりうる。いずれにせよ、AI時代を迎えビジネスと人工知能を融合することは企業の重要課題となりつつある。各企業は自社の能力を把握し、どのようにAIを開発していくか選択を迫られるだろう。

Googleは現在、Amazon、Microsoftなどに押され、クラウド事業では後塵を拝している。そのため、クラウドを通じてAI技術を提供することに注力している。クラウドAutoMLは、その成果物のひとつだが、Googleがクラウド市場で地位を確立することに寄与するのか、技術動向と併せて注目したい。

Photo by AutoML