写真批評家・飯沢耕太郎氏に聞く「写真と写真家と人工知能」の未来

「長らく技術的な“冬の時代”を経てきた人工知能技術は、数年前に画像解析分野における劇的なブレイクスルーを達成し、改めて注目を浴びることになりました」

そう話すのは、日本のAI研究者のひとりA氏だ。A氏が端的に説明してくれたところによると、従来の画像解析技術では、対象の特徴をひとつひとつプログラムとして記述する必要があった。猫なら猫の特徴を、犬なら犬の特徴を、人間がひとつずつ丁寧に機械に教えなければならなかったという訳だ。その試みのゴールは、世界のあらやるモノ・コトを言葉に置き換える作業と同義である。素人目にもその実現不可能性は明らかだが、同分野の研究者たちは地道に関連研究を続けてきたという。

その弛まぬ努力が実ったのか、はたまた時代の偶然か、演算機械の発展やデータ量の圧倒的な増加、そしてディープラーニング(ディープニューラルネットワーク)など関連技術が出揃うことで、人間が細かく特徴をプログラムする必要がなくなる時代が到来した。機械に大量のデータを学習させさえすれば、機械自身が判断の基準を生み出し、高い精度で対象が何か見抜いたり、区別したりできるようになったのだ。その画像判断の精度が、人間の能力を超えるレベルにまで達したというのが、ここ数年間のAI分野に起こった出来事である。

「つまり、人間が持つ対象を視覚的に判断する能力が機械にも備わってきたということですが、その後もAIの成長は続いています。昨年頃からは、データを学習しながら自ら獲得した特定の基準を持って画像を新たなに再現する技術、すなわち『画像生成』においても高いパフォーマンスを発揮し始めている」(A氏)

17年10月、論文サイト「アーカイブ」(Arxiv)に驚くべき研究結果を掲載された。米カリフォルニア大学の研究チームが、人間が撮影した写真や描いた絵のスタイルを学習・模倣・応用し、自ら新たな絵を生み出す人工知能(AI)システムを開発したというのだ。

論文によれば、同システムにはふたつのAI技術が使われている。ひとつは、絵やスタイル、構造、パターンなどを分析するディープニューラルネットワークの一種「畳み込みニューラルネットワーク」(Convolutional Neural Network=以下、CNN)。ふたつめは、学習データから新たな画像を生み出す「敵対的生成ネットワーク」(Generative Adversarial Networks)だ。

研究チームはまず、ECサイト「アマゾン」で人気の高い靴、帽子、ズボンなど商品データ画像を、CNNに学習させた。その次に、GANに消費者に人気が出そうな画像イメージを生成するようにさせた。するとどうだろうか。人工知能が学習結果をアップグレードし、ユーザーにさらに好感を得られそうなイメージを次々に生成し始めたというのだ。また同研究では、ハリウッドスターたちの顔のイメージを分析した後、そのデータをベースに新たなイメージを生み出す実験も行っている。そちらでは、人間が美しいと感じる顔のイメージが、AIによって山のように新たに生み出された。

そのようなAIによる画像生成技術は、日進月歩だ。すでに多くの企業によって研究・開発、そして実用化が進められようとしている。AI用のGPU開発で世界をリードするNVIDIAの研究チームは、上記カリフォルニア大学と似たような趣旨の実験以外にも、一

定の画像データをさまざまなパターンに変える技術を公開している。例えば、「晴天の日の昼の道路の写真」があったとしよう。NVIDIAが開発しているAIシステムは、その一枚の写真データから、曇りの日、雨の日、夜間などなど、様々なレパートリーの道路イメージを作り出す。

一方、米ラトガース大学やバイドゥらの研究者チームは、対象を説明するテキストデータから画像を生成する技術の開発に成功。マイクロソフトも、文章を理解して画像を生み出す「ドローイングボット」を公開している。

その他にも、モザイク部分や見切れで隠れてしまった画像の一部復元なども、画像生成AIの進歩によって可能になってきている。そのような状況を考え併せた時、「こんな写真が見たい」と人間が言葉で伝えるだけで、人工知能が最適なイメージを生み出したり、写真を思い通りに加工してくれる日は着々と近づいているように思える。

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。