アップル(Apple)が人の表情を分析、感情を読み取る人工知能(AI)技術を開発しているスタートアップ「エモーシェント」(Emotient)を買収した。
ウォールストリート・ジャーナルは7日、エモーショントの技術で広告を見た人々の表情を分析しその効果を評価することができるとしたが、アップルがこの技術で何をするかはまだ明確でないと伝えた。
アップルは買収直後に声明を出したが、具体的な買収条件は公開しなかった。一方で、医師が同社の技術を利用すれば、言葉で症状を表現するのが難しい患者の苦痛に気付くことができたり、流通業者が店に入ってきた消費者の表情を解析しマーケティングに活用できるとした。
グーグル(Google)やフェイスブック(Facebook)などシリコンバレーの企業は、人工知能の開発に力を注いでおり、なかでも人工知能の画像認識機能を向上させることが主要な関心事となっている。
グーグルは、2012年に猫を認識することができる人工知能技術に関して論文を発表、フェイスブックは公開された画像から自動的に人々の顔を認識することができる技術を公開している。また今年、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、自宅に来客があった際に、自動的に顔を認識する人工知能秘書を作りたいという声明を発表した。
アップルは2014年に顔の表情など、さまざまな方向から感情を読み取ることができるソフトウェアシステムを紹介した。昨年10月には別の人工知能ベンチャー企業である「ボーカルIQ(VocalIQ)」を買収している。同企業は、コンピュータの自然言語処理能力を向上させる技術を開発している。
米サンディエゴに本社を置くエモーシェントは、昨年5月1日に10万個の顔の表情を収集して分類、コンピュータの表情認識能力を向上させる技術に関して特許の承認を受けた。
エモーシェントの諮問を担当している心理学者ポール・エクマン(Paul Ekman)氏は、感情認識技術のパイオニアだ。彼は1970年代に、微細な顔の表情の変化がどのように人間の感情を現わすかを示すために、5000個以上におよぶ顔の筋肉の動きリスト化した。
フェイシャルアクションコーディングシステム(Facial Action Coding System)と呼ばれる同システムは、人工知能アルゴリズムを利用して感情を読み取る技術を開発するスタートアップの基礎技術となる。
華やかな技術が世に出てくることが期待される一方で、技術の利用には懸念も残る。その技術に対して懸念を発しているのは、他の誰でもないポール・エクマン氏だ。
エクマン氏によれば、人間が内面世界に抱く感情を読み取ることについては倫理的課題があるという。エクマン氏は昨年初め、メディアのインタビューに対し、感情を読み取るソフトウェアの可能性と、人々のプライバシーを侵害する可能性の間で葛藤していると明らかにした。
エクマン氏は、感情認識技術が人々の同意なしにその感情を読み取ってしまう場合があるとし、またその感情が誤って解釈される可能性もあると指摘している。買収の報せの後、ウォールストリート・ジャーナルが再びエクマン氏をインタビューしているが、その懸念はまだ晴れていない。エクマン氏は、エモーシェント側に対して、顔をスキャニングする際にその事実を人々に警告しなければならないという趣旨の言葉を伝えたともしている。
エモーシェントの代理人はこれに対し、「会社は個々人の情報を公開せず、総データについてのみ公開している」と述べている。
photo by emotient HP