米国科学振興協会「機械が人類の半分以上を失業状態に追い込む」

ロボティア編集部2016年4月2日(土曜日)

「今後30年の間に機械が人類の半分以上を失業状態に追い込む」また「人工知能が経済に及ぼす影響を決して過小評価してはならない」という主張が、米国科学振興協会(AAAS)によって発表された。

 ライス大学電算学科教授であり、グッゲンハイムフェローであるモシェ・バルディ(Moshe Vardi、上写真)氏は、AAASとの対話、また同会の年次総会で次のように述べている。

「機械がほぼすべての仕事で、人間よりも抜きんでる時代が近づいています。(中略)私はその時代が到来することに備えなければならないと考えています。機械が人間の仕事をほぼすべて代替するようになったら人間は何をすべきでしょう」

 近年、スティーブン・ホーキング氏、ビル・ゲイツ氏、イーロン・マスク氏らは、似たような趣旨の発言をしたことがある。ホーキング氏は人工知能が「人類に終末をもたらすかもしれない」と述べ、一方のマスク氏は「過去最大の存在論的危機に人間が直面している」と言及した。人工知能に対する不安は、殺人ロボットを禁止しようという主張を持った人々をUN前でデモに駆り立ててもいる。

 一方で、バルディ氏が主張する“人間が直面しているリスク”というのは、人工知能が暴走して人類が支配されるというような話ではない。人工知能が人類の失業率を50%まで引き上げ、中間層が消滅、不平等が拡大するというものである。

 バルディ氏は、人間よりも優れた“筋力”を持つ機械が生まれた19世紀の産業革命と、現在、目前に迫っている“人工知能革命”は根本的に次元の異なるものだとする。後者は、筋力に加え知的能力の面においても、人間と機械が対決するということを意味する。中国ではすでに、フォックスコンやサムスンが人間の労働者を代替えする精密なロボットを開発しており、数千の働き口が消えてしまった。

 バルディ氏はまた、知能ロボットが人間を補助し、労働者が週に数時間だけ働いて余暇時間を楽しめるとしたジョン・メイナード・ケインズ氏の“バラ色の夢”や、Google技術責任者であるレイ・カーツワイル氏が夢想するような、人類と超人工知能が作るユートピア的特異点(the singularity)についても言及。懐疑的な意見を見せた。

「私は休息だけが存在する生活に魅力を感じませんし、そのような未来が望ましいとも考えていません。私は仕事が人間の幸福に不可欠な要素であると考えています」

バート・セルマン_Bart Selman
バート・セルマン氏(写真右) photo by cornell.edu

 コーネル大学電算学科バート・セルマン(Bart Selman)教授は、自動運転車と同様にメイドロボット、サービスロボットなどの人工知能ロボットが一般化され、人間は「マシンと一種の共生状態に入り、それらを信頼し同僚として働くことになる」とした。また、ビッグデータやディープランニングによって、機械が「文字通り人間のように“見て”、“聞く”ことになる」としている。

 それらの発言に対しても、バルディ氏は一種の不安を吐露する。彼は今後25年以内に、運転が完全に自動化されるだろうとし「機械がすべての仕事をするとき、人間は何をすべきでしょうか」と問いかける。

 バルディ氏は、実際に技術が過去50年間、米国経済に大きな影響を及ぼしたと指摘する 。

「私たちは(米国の)失業率が4.8%に低下したニュースに喜んでいます。しかし、このような短期的な失業率だけに関心が高まり、過去35年、実質的な経済危機だったという事実は忘れされられてしまった」

 バルディ氏が話す実質的な経済危機とはどういう意味か。一例では、米マサチューセッツ工科大学が発表した研究がある。米国では自動化が進み、生産性が向上、GDPも向上してきた。が、失業率と世帯当たりの平均賃金は1980年以来下落し続けているという。 バルディ氏が懸念しているのは、それら自動化が及ぼす人間への影響であり、経済的構造の変化だ。

 バルディ氏は自動化が政治的に非常に重要な問題になるだろうと述べ、政治家たちがこの問題を無視している事実を憂慮している。今年、米国では大統領選挙を迎えるが、その話題のどこにも自動化というキーワードは登場しない。バルディ氏は、人工知能から安全な仕事は事実上存在しないと言い切る。

 昨年、マッキンゼー社は、人工知能が各職業に与える影響を調査した。そして、医師やヘッジファンドマネージャーのように、高収入の職種は比較的安全であるという結論を下した。加えて、造園師やヘルパーのような低収入の職種の中にも、影響を受けにくい職種があるとしている。

 一方、CEOの業務のなかで20%は、現在の技術だけを持ってしても自動化することができ、庶務員の仕事は約80%が代替えできるという結論を下している。この結果は、バルディ氏の予測と似ている。現在の技術だけでも、現存している職業の45%が自動化できるというのが彼の考えだ。

 バルディ氏は、科学者たちが英知を集めて、次のような質問に対する答えを考えなければならないとする。

「私たちが作る技術が人間に役立つのだろうか?(中略)人類は“汗を流してこそパンを食べられる”という時代が終わる時、再び人生の意味を見つけなければならないという、史上最大の課題に直面することになるだろう。私たちはその課題を迎える準備をしなければならない」

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photo by plus.google.com

 現在、人工知能の飛躍的発展のニュースが報じられることにより、自動化と人間の仕事に関する議論は一層高まっている。例えば、米労働部長官であるトーマス・ペリッツ(thomas perez)氏は、米国の港が他国の港と競争するためには、労働組合の反対をおさえ、ロボットクレーンと自動化された設備を設置しなければならないと述べた。

 一方、 2013年、ふたりのオックスフォード教授は、電話マーケティング担当者や法律秘書、シェフなど、米国の会社員のうち47%が自動化による危機に瀕していると指摘している。「機械の時代:職業が消えた未来という脅威(Rise of the Robots:Technology and the Threat of a Jobless Future)」の著者であるマーティン・フォード(Martin Ford)氏も、学術ジャーナル誌「ナショナルジオグラフィック」で、自動化がもうすぐ政治問題になるだろうとし、もし科学者と政府がこの問題を解決できない場合は「経済的に最上層にいない多数の人々には、暗鬱な未来が待っている」と言及している。

 悲観的な未来予測に批判的な人物もいる。ピューリッツァー賞を受賞したニコラス・ジョージ・カー(Nicholas George Carr)氏、スタンフォード大学の科学者エドワード・ゲイスト(Edward Geist)氏らが代表的だ。カー氏は、複雑な問題を解く人間の創造性と直感的には固有の力があり、機械が代替することができないと主張している。

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