人工知能による投資支援を表すロボアドバイザー。その大手企業である米ベターメント(Betterment)は、英国のEU離脱が決まった日、市場の暴落を理由に顧客の取引を一時停止した。その“決定”で大きな損失を負った顧客もおり、欧米メディアから疑念が提起された。いわく、金融市場の変動性が高まる時期に、顧客の市場参入と離脱を「ロボットの権限でコントロールするのは、はたして適切なのかどうか」というものだ。
現在、ベターメントが運用する資金の規模は49億ドル。ロボアドバイザー分野では最大規模であり、特に若い年齢層の顧客に人気が高い。
ベターメントは、英国の国民投票の結果が公開され、株式市場が急落した6月24日、2時間半間にわたり取引を停止した。ベターメント側は決定に対し、投資家を損失から守るためだったと主張。また、緊急時には取引を停止する権利があると、同意書にも記載してあると弁明している。
一方、ロボアドバイザーを使用する投資家および金融監督当局者は、市場が暴落するなか、企業側が顧客に取引停止の事実を知らせていなかったことや、同システムが投資するポートフォリオの流動性について懸念を示した。例えば、これまでロボアドバイザーの能力に疑問を提起してきたマサチューセッツ州の規制当局担当者ウィリアム・ガルビン氏は、「顧客が大きな不利益を受けた」と評価した。
「人々が(取引ができず)足をバタつかせているのにもかかわらず、ファンドは流動性を確保できなかった。これは本当に悪い先例だ」(ガルビン氏)
ガルビン氏はまた、ベターメントが取引停止をファイナンシャルアドバイザーにのみ知らせ、個人投資家には明かさなかったという点について疑念が残ると指摘した。彼は現時点で、マサチューセッツ州がベターメントの取引停止にする計画はないが、状況を監視するとも述べている。
ベターメントのジョン・ステイン(Jon Stein)CEOは、取引を一時停止した同社の決定を支持。ただし、顧客とのコミュニケーションにより気を使わなければならないと認めている。
「告知方法について議論しました。(例えば)アプリや電子メールを通じて知らせることができる。我々はさまざまな方法を模索している」(ステイン氏)
他のロボアドバイザーサービスと同様に、ベターメントも投資に対する決定をアルゴリズムに“依存”する。ベターメントのアルゴリズムは、顧客の年齢や収入などだけでなく、金融リスクも考慮してポートフォリオを構成する。
ステインCEOはベターメントが過去にも、米連邦準備制度(FRB)が政策金利を発表する前後10~15分の間、取引を停止したことがあったという。また市場変動性が高かまる取引開始後30分、終了前30分間は取引を避けているとも説明した。
なお、ベターメントの規約には「市場の変動と需要が高かったり、システムを維持・保守する状況では、顧客の口座へのアクセスを制限できる権利がある。(中略)サービスの一時停止と関連したいかなる損失にも責任を負わない」と明示されている。しかし、前出のガルビン長官は、顧客の返済請求権はこのような規約内容とは関係がないとし、議論の余地があると指摘している。
もし、今回提起された顧客や担当者の疑念を払拭できなければどうなるだろうか。おそらく、勃興しつつあるロボアドバイザー産業において“歴史的汚点”として残るかもしれない。