米ナスダック証券取引所(NASDAQ)が、違法株式取引を摘発するため、人工知能をベースにした監視システムをテストしていると、1日、ウォールストリートジャーナルが報じた。
ナスダック証券取引所は、認知コンピューティング専門企業・デジタルリーズニング(Digital Reasoning)と連携しAIシステムを構築。テストを行っている。デジタルリーズニングはこれまで、米国防総省および司法当局に協力し、テロリストの追跡、児童人身売買捜査などに対して支援を行ってきた。
今回、証券取引所の監視システムに人工知能が組み込まれるということになりそうだが、一体どういうことなのだろうか。現在、ナスダックでテスト中の不正株取引監視システムは、トレーダーたちの取引履歴と社内メッセンジャー、電子メール、会話履歴などを比較・分析する。その会話の文脈などを解析し、インサイダー取引や株価操作、その他の犯罪を事前に補足できるように設計されているという。
金融コンサルティング企業・セレント(Celent)のシニアアナリストである、アンシューマン・ジャスウォール(Anshuman Jaswal)氏は、「2008年のグローバル金融危機から学んだ教訓は、注視していない信号が多かったということ(中略)トレーダーの会話履歴は、これまでのシステムが捕捉できなかった問題をのぞき見る“窓”になることができる」と述べている。
なお、現行の監視システムもトレーダーが交わす会話を監視している。ただし、主にキーワードに焦点が当てられているため、リスクを知らせる“微妙な信号”を捕捉することができない。むしろ、的外れな警報を鳴らすケースが少なくないという。証券取引所の関係者は「現行のキーワード検索は、単語が使用されている前後の文脈を把握していない(中略)AIシステムが導入されれば、トレーダーの頭の中で何が起こっているか示すことができる」と断言している。
証券取引所は今回、内部で運営する取引データ分析プラットフォームに、電子対話・言語を徹底的に分析するデジタルリーズニングの機械学習技術を組み合わせて、新しい監視システムを構築した。会話履歴は証券会社と大手銀行から受け取る。金融企業は関係法の規定に基づき、株式トレーダーと、その他の従業員の電子通話を記録し保管する必要がある。
証券取引所のデータ分析プラットフォームには、注文のキャンセル回数、リスク感受性向など、トレーダーの取引の詳細やスタイルが入力されていく。ここには、トレーダーが普段、誰とどのように対話するか、友情関係、人脈など個人情報も含まれる。
証券取引所の関係者は、データ分析プラットフォームと機械学習技術を融合すれば、単独で分析するよりも、より良い結果を得ることができるとしている。デジタルリーズニングCEO、ティム・エステス(Tim Estes)氏は「テロと性犯罪捜査に活用されたアルゴリズムを変更すれば、金融犯罪の摘発にも活用することができる(中略)どのような形の犯罪者でも、普段は曖昧な言語を使用している」と指摘した。
エステス氏は今後、監視システムに多くの語句や取引内訳が入力されていくだろうとしている。金融取引に関する膨大な情報データや、トレーダーたちの会話履歴を人工知能が学習していくということになる。すでに世界金融危機や、エンロン不正会計事件などの裁判過程で公開された文書は入力済みだという
エステス氏はまた、機械学習技術は人間が見逃がしがちな小さな挙動をキャッチできるとしている。例えば、数週間、あるいは数ヶ月間の取引に示された軽微な変化、言葉数が多かったトレーダーの対話がいきなり減るなどの現象を、見逃さないのだそうだ。
犯罪捜査に人工知能が応用されて久しいが、今後は経済犯罪および捜査の領域でも活躍が期待される。
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