中国のAI犯罪者追跡システム「天網」に物議...2000万台の監視カメラとDBが連動

ロボティア編集部2017年9月28日(木曜日)

 最近、中国・都心部の様子が映された約9秒のとある動画がインターネット上にUPされ、ネットユーザーたちの論争の的となった。動画内では通行人、バイク、自動車などを監視カメラが徹底的に追跡。「男性-40歳-黒のスーツ」、「白-SUV」など詳細なキャプションを添える姿が映し出されていた。

 しばらくすると、その動画の“真実”が明らかになった。動画の正体は、中国公安当局が2000万台にもおよぶAI監視カメラをベースに構築した犯罪者追跡システム「天網」のキャプチャー動画だったのだ。

 中国国営放送「CCTV」は過去に、習近平国家主席の業績を公表するドキュメンタリー番組で、天網の存在を紹介したことがある。曰く「(同システムは)国民の安全を守る『目』の役割を果たしている」というのだ。しかし、中国ネットユーザーたちはそれを信じていない。「安堵感」よりも、ジョージ・オーウェルの小説「1984」に登場する「ビッグブラザー」が出現したとして「恐怖」を感じているという。

 反腐敗・反犯罪を標榜した中国が、2015年から構築を開始した天網は、動くものを追跡・判別するAI監視カメラと、犯罪容疑者のデータベースが連動したシステムとなっている。 AI監視カメラにはGPS、顔認識装置が取り付けられており「信号を無視した車」、「いきなり走り出す通行人」などを捕捉した後、その姿を拡大して“認証”をはじめる。もし対象が指名手配者リストに載った人物だと判明すれば、即座に警報が鳴る仕組みだ。

 中国の一部の地方公安当局では、この天網を通じて指名手配者を検挙した“成功例”を報告しているのだが、中国のネット上では「天網があるのに、なぜ多くの子供がいまだ誘拐されているのか」「(すべて)政府の監視下に置かれプライバシーがない」など批判が続出しているという。仏国際ラジオ(RFI)も、「監視カメラ2000万台で構成された監視網の存在は、国民を保護するという名分の下、プライバシーを侵害している」と批判している。

 リアル空間だけではなく、オンライン空間でも中国当局の監視網はますます厳しくなる傾向がある。「環球時報」によると、中国インターネット情報弁公室は9月25日、WeChat(メッセンジャーアプリ)や微博(中国版ツイッター)、バイドゥーのインターネット掲示板など、中国の3大IT企業が運営するSNSサービスに対して「不純な情報の管理が不十分」という理由で莫大な罰金(約860万円)を課した。わいせつな情報やテロ情報、民族間の憎悪を煽る情報やコメントなどを広めた責任を、IT企業側に負わせた形だ。

 先だって9月23日からは、世界最大のオンラインメッセンジャーである米「WhatsApp」が中国で全面遮断された。なお、中国でWhatsAppが全面遮断されたのは今回が初めて。フェイスブック、インスタグラム、ツイッター、グーグルに続き、WhatsAppが中国政府公認のブロックリストに載ったことになる。

 AIやその他のテクノロジーの力が増すにつれ、今後も中国の監視網やより強化・拡大していくだろう。次世代テクノロジーが、単なる国民監視のツールに成り下がらないよう祈るばかりだ。