5000人の逃走犯を検挙した中国 Face++の顔認識AI...その原点はゲームアプリだった

ロボティア編集部2018年8月21日(火曜日)

2011年当時、清華大学の学生だった唐文斌は、同期二人とともに人工知能(AI)の会社を設立する。後に中国を代表する企業へと成長するFace ++(旷视科技)である。

唐文斌は浙江省紹興出身で、幼い頃から「コンピュータの天才」と呼ばれて育った。全国情報オリンピアード大会を総なめにし、高校2年生の時に推薦で清華大学に入学する。中国メディアは、先天的な才能を持って生まれた唐文斌が、清華大学の姚期智教授の専門的な教えを受け、人工知能業界をリードする人材に成長したと分析する。

2010年、唐文斌はマイクロソフトのアジア研究院で実習を行っていた際、横のチームに所属していた印奇と知り合いになる。唐文斌は当時、人間と同様に物事を認識するスマート機器が出現する予測しており、ビジョン認識やセンサーの重要性を感じていたが、印奇もその考えに深く共感したという。二人は構想を具体化・商品化すべく、十分な時間を使う。印奇はフランスに留学。一方の唐文斌は大企業でのノウハウを蓄積する。

その後、AI企業を創業する決定的なきっかけとなったのは、唐文斌と印奇が開発した「Crows Coming(乌鸦来了)」というゲームだった。顔認識技術を活用した同ゲームを運営する過程で、Face ++の共同設立者のひとりである杨沐が合流する。

Crows ComingはApp Storeの中国無料アプリランキング3位となり、多くの投資家からラブコールが集まった。そのうちのひとつである投資管理会社・联想之星は、人工知能の未来を有望と判断。三人の青年に創業のための投資を決定する。

Face ++が本格的に世間の注目を集め始めたのは、2015年3月にドイツで開催されたIT博覧会の会場だった。アリババのジャック・マー氏は、「顔認識決済」を実演してみせたが、その技術を開発した会社がFace ++であるという事実が知られたからである。

98%の精度を誇るとされたFace ++の顔認識技術には、金融機関から熱い視線が集まった。現在、Face ++は中国平安銀行、中信銀行、江蘇銀行などに身分確認サービスを提供している。

Face ++は顔認識技術を「セキュリティシステム」にも応用した。2017年、中国公安はFace ++の技術で5000人以上の逃走犯を逮捕したと言われている。

脱走犯の身分確認や緊急警報などに加え、Face ++は人間の行動を観察し犯罪の可能性を予測・判断する技術も備えている。それらの技術をひっさげ、2016年の杭州G20首脳会議、厦門ブリッグス首脳会議、海南ボアオアジアフォーラムなど要人が集まるイベントでもセキュリティのサポートを担当した。

人工知能を開発する企業には、標準化された技術プラットフォームをさまざまな業種に提供する企業と、各業種に合わせて技術を開発する企業がある。Face ++は後者である。

唐文斌は、人工知能技術は状況に応じて問題を解決する方法であって、すべての状況に適用することができる技術ではないということ、またそれぞれ異なる状況に最適化された技術が必要であると強調している。

中国を代表する人工知能企業は、金融、セキュリティ分野に続きどのような業種への進出を構想しているのだろうか。今後の動きに注目が集まる。

Photo by Face++ HP