人工知能の積極的な導入が期待される分野がある。環境保全の分野だ。すでに、気候変動や生物保護など地球の環境問題と関連する分野で、人工知能の導入が積極的に進んでいる。
まず、米国コーネル大学(Cornell University)のカーラ・ゴメス(Carla P. Gomes)教授チームは、鳥生息地の分析活動に人工知能を活用している。
米メディア「エンシア(Ensia)」によると、ゴメス教授チームは、「イーバード(eBird)」というアプリをリリース。一般ユーザーから、近隣に生息する鳥の情報を収集することに努めてきた。結果、約30万人のユーザーが、観察記録を総3億回以上にわたりアプリに残したのだが、それら膨大な資料を人工知能で解析することで、鳥がいつ、どこにいるか、また、季節が変わるごとにどのように移動するかなどを予測できるようになった。
研究者チームは、その分析結果を環境活動家や政策決定者と共有。鳥の生息地を保護するため、効果的に活用する計画だと明かしている。具体的には、特定の鳥の移動経路を予測し、稲作をする農家に補償金を支援することで、その地域の水を鳥が摂取できるようにするなどの対応に活かすという。
鳥は地球温暖化や気候変動の影響を受けやすい。温暖化で高山地域のツンドラが消滅して生息地を失ったり、海面上昇で繁殖地の島が消滅してしまうというケースにも見舞われている。そのため逆説的に鳥は、自然環境の健全さを測る指標、また気候変動に関する重要な情報を提供する生物にもなっている。
そんな鳥の生息状況の分析以外にも、人工知能は活用されている。米航空宇宙局(NASA)では、人工知能を使用し、海に生息する植物プランクトンの個体数の測定や、正確な分布を追跡している。
気候変動と地球温暖化が続いた場合、人類に襲いかかる最大のリスクがある。酸素の枯渇だ。2015年12月、英ラスター大学の研究者は、海水温度が6℃上昇した場合、酸素の70%を生産しているといわれる植物プランクトンが絶滅する可能性があると指摘した。NASAでは衛星写真と人工知能を活用し、その問題に対策を立てる計画だ。
また、NASAは2022年から「PACE(Pre-Aerosol Clouds and ocean Ecosystem)」プロジェクトを進め、気候変動に関するより詳細なデータを収集する予定だ。このプロジェクトが実現すれば、微生物やプランクトンが二酸化炭素と酸素濃度にどのような影響を与えるか、具体的に知ることができるようになるという。なお、人工知能とクラウドコンピューティング技術を組み合わせ、何百万枚もの衛星写真を細かく分析する技術を、通称「マクロスコープ(macroscope)」という。
世界資源研究所(World Resources Institute=WRI)は、ビッグデータ関連のスタートアップ企業である「オービタルインサイト(Orbital Insight)」とパートナーシップを結び、森林破壊を監視・予測するプロジェクトを進めている。
具体的にはマクロスコープ技術を活用し、膨大な衛星写真を撮影。そのデータを人工知能で分析することにより、新道路の建設や森林伐採などの兆候を把握し、最も高い危険にさらされている森を予測する。予測結果は、地域の当局者に提供され、森林を脅かす開発活動などを防ぐために使用されるという流れだ。
一方、オーストラリアのクイーンズランド工科大学(Queensland University of Technology)の研究者は、コアラなど野生動物を空から観察・保護する人工知能ドローンを開発中だという。この熱感知カメラを搭載したドローンは、人工知能の判断で有用なデータを転送。野生動物の個体数変化の分析を促す。開発が成功すれば、絶滅の危機に瀕している動物種の移住計画を組んだり、生態系を撹乱させる種を制御するための計画策定に寄与すると期待されている。
ビジネスとしてはすでに、IBMが開発・アップグレードを進めている人工知能「ワトソン(Watoson)」が、気象予測の領域で人間には気づかなかった問題点を発見したり、中国・韓国政府と協力しPM2.5の影響を緩和する用途で使用されている。
環境問題は人類の課題としてだけではなく、ビジネスとしても“金脈”と言われている。その分野の発展に人工知能がどんな影響を及ぼすのか。世界では着々と研究・開発・商業化が進められつつある。