米オバマ政権が銃規制のための報告書を発表。報告書の柱のひとつとして「スマートガン(smart gun)」を前向きに活用していくという方針が組み込まれた。スマートガンの定義として重要になるのは、半導体チップを利用した銃で、所有者の指紋を認識し発砲の可否をコントロールできるという点となる。
4月29日、米行政府はスマートガンの詳細と、ガイドラインが盛り込まれた規定を連邦・州・地方政府に配布した。発射を制御できるが銃を使用して、事故や不正使用を防ぐというのが、米行政府の意図するところだ。
これまで、米国では銃と関連する事故が続いており、米行政府は事故防止を防止するための方法を模索してきた。現在は、銃そのものの使用を規制するよりも、最新テクノロジーを導入し、銃の使用を監視・コントロールする方向に舵を切りつつある。
スマートガン導入に関しては、技術的にそれほど困難ではないという。ホワイトハウスのヴァレリー・ジャレット(Valerie Jarrett)常任顧問は、報告書を通じて「現在のスマートガン技術で、安全装置を確保することは難しくない」と言及している。そのジャレット顧問の自信の背景には、スマートガン関連技術の急速な発展がある。加えて、シリコンバレーの伝説的な投資家ロン・コンウェイ(Ron Conway)の援護射撃が、ホワイトハウスの背中を押している。
コンウェイ氏は過去に、メールを通じて「スマートガンを通じて意図していない銃撃を防ぐことができ、結果的に安全な社会の雰囲気を作ることができる(中略)私たちの技術に対する挑戦が、スマートガンの明るい未来を創出することができるものと期待している」とコメントしている。
実際、スマートガンの技術革新は急速に進展している。例えば、最近登場しているスマートガンはほとんど、銃の所有者の生体情報を認証できるIDシステムを備えている。フロリダ州に本社を構えるデイトナビーチ(Daytona Beach、企業名iguntechnology)が開発したスマートガンには、銃の所有者の手のひらを認知することができるリング状のチップが入っていて、アクセス許可が付与された者のみ銃を使用することができる。
電子タグ装置であるRFID(radio frequency identification)技術を採用したケースも増えてきた。ドイツ企業「アーマティクス(Armatix)」では、銃自体ではなく、別の場所で使用をコントロールできるスマートガンを開発した。アーマティクスが開発したスマートガンは、指紋が認識されたユーザーに付与される「iP1」という名称の腕時計とともに使用する必要がある。時計からスマートガンを制御することができる無線信号が出ており、その時計を装着しなければスマートガンを使用することができない。
また最近では、スマートガンにバーチャルリアリティー(VR)技術を導入する案も試みられている。詳細はまだ明らかにされていないが、遠隔地から発砲をコントロールする技術だと言われている。
スマートガンの普及が実現性を帯び始めた現在、普段、銃をもっとも多く使用する米警察および軍人たちは“賛成派”に回っており、それぞれ開発に大きな関心を表明しているという。
警察は銃にまつわる事故や事件が相次ぐことに苦心しており、スマートガンを使用して、それらを抑制することができる方案を講じている。米・国防部も、部隊内で銃と関連した事故が頻繁に起こり困難を経験してきた。そのため、莫大な資金を投入しスマートガンの開発を牽引している。
わずか数年前まで、「スマートガン」技術に投資する人はほとんどいなかった。しかし銃と関連した事故が、深刻な社会問題として浮上しているため、状況が変わってきているという。その“社会的課題”の解決に商機を見たシリコンバレーの巨人たちも、重い腰を上げ動き始めているという。
一方、スマートガンの発展や銃規制そのものに反対する勢力もある。全米ライフル協会(National Rifle Association)がその代表格だ。彼らは、オバマ政権の銃規制方針に真っ向から対立してきた。銃販売の減少を憂慮しているというのが、その本質的な理由となる。
米国は、中学校で銃の使い方を教えるほど使用が一般化された国だ。世界の銃の需要の約半分を、米国だけで占めるという統計もある。そのため、スマートガンの使用を義務化する米政府の措置が具体化されれば、銃関連市場に大きな波及効果を招くと予想されている。