インドの人口は加速度的な増加を見せており、2020年には 13億人に、 そして 2030年には中国を追い越し世界1位になると見込まれている。
死亡率には大きな変化はなく、出生率が着実に伸びている。しかし、心 臓病、癌、糖尿病といった生活習慣病が増加しているのも事実だ。生活習慣病の増加をうけて、その予防や治療に向けた医療機器の需要が増えつつある。
近年、インドの医療産業は急速な発展を遂げており、2018年までに 1450億ドル、2025年までに2800億ドル規模に達する見通しだ。 このような医療サービスの需要拡大に伴い、インド政府も医療機器に対する外資規制を緩和させる方針を打ち出している。
インドの医療機器市場の規模は既に22 億ドル以上とみられ、全体の規模でみれば世界の上位 20 ヵ国に入る。Deloitteとインドの医療産業団体NATHealthが実施した共同調査によると、近年インドの医療機器市場は急速に発展しており、2020年までに年率15%増で成長し、86億ドル規模に、また2025年には500億ドル規模に達する見込みだ。
これまで、従来の医療機器は農村部や低所得者には行きとどかず、都市部の高所得者層向け医療サービスに関連したビジネスにのみ注力されていた。しかし近年では、 拡大する中低所得者層のニーズや予算に見合った製品を提供するため、メーカー間で戦略の転換を図る傾向が見られる ようになっている。
また、インドの医療施設は年々増大する医療需要に追いついていないという課題を抱えている。そのような状況を受け、インド政府は、国を挙げて医療施設と医師の大幅増加に乗り出した。都市部だけでなく、農村部をはじめとする地域への病院インフラの構築を掲げ、実現に向けた取り組みを行っている。病院建設が進めば、それだけ医療機器の需要増につながる。
一方、インド国民の医療保険の普及率は大変低く(15%以下)、これが医療サービスを受ける上での制約要因になっている。国家健康保険計画(Rashtriya Swasthya Bima Yojana)など医療保険の拡充に向けた政府の取組みと、保険産業の事業環境を改善する規制緩和などにより、2020年度には医療保険の加入率が20%にまで上昇すると見込まれている。このように医療サービスを国民に身近に提供していくことで自然と医療機器への需要も高まっていくことになる。
さらには先述した通り、インドでは生活習慣病が増加の傾向にある。その実態は、既に世界で最も多くの糖尿病患者を抱える国だという報告もあるほど。 今後、生活習慣病の予防や治療には、様々な医療機器が投入される予定であり、需要も高まっていくと考えられる。
インドでは国が医療産業を後押しする一方、さまざまな課題も懸念されている。 第一に医療機器の高額な設置料金および利用料金である。インドで使用されている医療機器の大半は輸入製品だ。特に高性能の機器に関しては輸入品に過度に依存しており、地元メーカーの大半は、低価格の使い捨ておよび消耗品の製造に特化している。したがって、輸入製品が圧倒的に多いことから、インド国内の医療機器産業の雇用の大半は開発技術者ではなく、販売関連が多くを占めている。メンテナンス料や維持費を考えると、政府の投資だけで賄っていける規模ではない。また、高額な利用料金によって農村地域や低所得者の大半は、政府の補助でもない限り、医療機器による診断は受けられない状況になる。
第二に、専門能力を持った人材不足である。インド国内にはまだ高度な医療機器技術を教えていく態勢は整っておらず、こちらも一朝一夕には成し得ないため、大いに懸念されている。