2018年は国内外を問わず、地震や山火事、洪水など、数々の災害に見舞われる一年となった。日本国内では、1月の記録的大雪に始まり、島根県西部地震、大阪北部地震、西日本豪雨、災害級の猛暑、大型で非常に強い台風による度重なる襲撃、北海道胆振東部地震が相次いだ。
インド工科大学カラグプル校では、2015年のネパール地震や今年8月のケララ州での大洪水を受け、防災対策に役立つアルゴリズムを開発するプロジェクトが進行中だ。カタールコンピュータ科学研究所、マイクロソフト、メディアラボ・アジア(旧デジタルインド・コーポレーション)、印政府電子機器・情報通信局(DEITY)などの協力を得て実現した。
近年、ツイッターをはじめとするソーシャルメディアは被災地のリアルな声を入手するための重要な情報源と化している。今回、インドの研究者らが着目したのがソーシャルメディアである。
特に重要な情報が含まれているとされるツイートは全ツイートの2パーセント程度に過ぎない。地震が発生した場合、一刻も早い対応が求められており、ソーシャルメディア上のツイートを一つ一つ精査するほど時間的余裕はない。しかも、パニック状態に陥っており、判断が鈍るため、正しい情報を見抜けない可能性が高い。
「今回開発したアルゴリズムは最新のニューラルネットワークモデルを採用しており、被災者の同情の気持ちを手がかりに、災害後にソーシャルメディア上で拡散された大量のツイートから災害関連のツイートのみを選別し、適切に要約するようになっている」(インド工科大学・Saptarshi Ghosh教授)
熊本地震が発生した時には、「ライオンが動物園から逃げた」というデマがツイッター上で瞬く間に拡散され、さらなる混乱を招いた。アルゴリズムは災害時に拡散されるこうしたデマやヘイトスピーチにも対応しているという。
現在、研究者らはその後の救助活動をスムーズに進めるべく、新たなウェブシステムやモバイルアプリの開発に精力的に取り組んでいる。
研究内容については、コンピュータ科学系学会ACM(Association for Computing Machinery)のジャーナル誌「ACM Transactions」(電子版)でも取り上げられている。
ソーシャルメディアを活用した災害支援については、米国でも注目を集めている。米政府農務省はカリフォルニア州で相次ぐ山火事への対策として、ソーシャルメディアの活用を提案。2015年にカリフォルニア州で発生した山火事に関する、ソーシャルメディア上で拡散された3万9千件に及ぶツイートを米国環境保護庁の大気品質モデルに統合。ジオコーディングで各ツイートと最寄りの大気品質観測所とを紐付けることでAIアルゴリズムを構築した。こうして、ソーシャルメディアを通じて山火事の発生場所を特定し、煙がどの程度蔓延しているかをおおよそ推定可能となっている。
近い将来南海トラフ地震や首都直下型地震の発生が危惧されるなか、防災への取り組みの重要性が問われている。ソーシャルメディアを活用した対策に乗り出す自治体が増えることを期待したい。
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