障がい者を支援…AIやIoT活用の外骨格ロボット&ウェアラブル機器の市場が急成長

ロボティア編集部2017年1月17日(火曜日)

 昨年9月、妊娠16週の妊婦クレア・ロマス(Claire Lomas、36歳)さんは、ノースイーストイングランドで行われたグレートノースラン・ハーフマラソン(Great North Run - Half Marathon)に出場し完走に成功した。彼女が妊婦であるという事実は驚くべきことがが、さらに特筆すべきこともある。彼女は麻痺障害者だった。

 ロマスさんは2007年に乗馬事故に遭い、胸の下が麻痺して歩くことも困難な状態だった。それでも5日にわたって歩き、最終的にゴールまで到着した。ロマスさんが完走できた理由のひとつに、装着した外骨格(exoskeleton)ロボットがあった。

 英兵士ジェームズ・ジョンソン(James Johnson、33歳)氏は、2012年にアフガニスタンにて従軍し、下半身が麻痺する事故に見舞われた。彼もロマスさん同様に、胸の下の感覚がまったくなく車椅子で生活していた。ジョンソン氏の夢は再び一人で歩くこと。そして友達とお気に入りのレストランに行くことだった。

 2015年、ジョンソン氏の夢は実現した。イスラエルのロボットメーカーであるリウォークロボティクス(rewalk robotics)のウェアラブルロボットを着用し、自ら歩けるようになったのだ。リウォークロボティクスは昨年9月までに、コミュニティを通じて外骨格ロボットを合計100台販売したとしている。

 外骨格ロボットはそもそも、1960年代に米海軍が初めて開発したものだ。腕にロボットを装着し、重い砲弾を運ぶためだった。現在、兵士の作戦遂行はもちろん、工場労働者が重い荷物を運ぶ仕事をする際、効率と安全のために使用されている。

外骨格ロボット_人工知能_予防医学
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 2014年に仏ロボット企業RB3Dが開発した、外骨格ロボット「ヘラクル(hercule)」を着用すると、60kgの重さの荷物の重さが5kgになる。EU 7カ国のエンジニア12人が集まって行われたロボメイトプロジェクト(Robomateproject)も、荷重を10分の1に減らす目的がある。

 英医療慈善団体・スピナルリサーチ(spinal research)によると、米国には27万人以上の麻痺患者がおり、英国およびアイルランドにも5万人程度がいると推定されている。全世界的には、数百万人が外骨格ロボットを使ったリハビリ治療の潜在的な対象者だ。

 外骨格ロボットの市場展望は明るい。市場調査会社ABIリサーチは、外骨格ロボット市場は2014年に6800万ドル規模だったが、2025年には18億ドル規模に急成長すると予測している。これまで、外骨格ロボットは、下半身麻痺のリハビリ用途がほとんどであったが、最近では、高齢者の身体能力を高めたり、子どもたちの脳や脊髄の問題を早期に発見する予防医学としても機能しはじめている。

 サンフランシスコに拠点を置く米スタートアップ・スーパーフレックス(Superflex)は、センサーで体の姿勢や動きを追跡し高齢者の円滑な移動を支援する、新たなロボット製品の開発に着手した。 

 オクラホマ大学の研究者たちは、人工知能(AI)とロボットスーツを活用。乳幼児の脳性麻痺を判断し、筋肉萎縮を防止するSIPPC(Self-Initiated Prone Progression Crawler)を公開した。身体と頭に取り付けたセンサーを通じて乳児の動きを監視。子供の活動をAIがデータ分析することにより、予防と早期治療の道を開いたという評価がある。

 スペイン国立科学研究特別委員会は、既存の外骨格ロボットが大人のために開発されているため、子供たちが利用することができない点に注意を向けた。そして2016年に、3〜12歳の下半身麻痺の子供たちが着用することができる外骨格を開発した。

 外骨格ロボット技術はますます発展しようとしている。ドイツ・テュービンゲン大学病院では、思考と眼球運動だけで麻痺した指を動かすことができる手外骨格装置が開発された。一方で、IoT技術を結合し、外骨格を脳卒中と脊髄患者のデータを通信会社であるボーダフォンのネットワークと接続することにより、より効果的なリハビリ治療を可能にする技術も登場している。

 外骨格ロボットの普及には課題もある。ひとつは価格と活動のための“柔軟性”だ。日本の場合、保険が適用されているものの、サイバーダインの「HAL」にのみ対応となっており、適用される対象疾患も筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)など一部にとどまっている。アメリカやヨーロッパではまだ保険適用がされておらず、購入には数万ドルのコストがかかる。麻痺27万人のうち、4万人が退役軍人である米国では、退役軍人部障害予備役(一般社会で生活している軍隊在籍者)を対象に、外骨格ロボットの購入費用を支援する明らかにした。

 外骨格ロボットはまた、アルミやチタン素材で作られて重く、鈍い印象がある。特殊な繊維などでつくられた、「ソフト外骨格ロボット」の開発にも注目したい。

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