インドの「優しい人工知能」が干ばつや悪徳高利貸から農家を救う

ロボティア編集部2017年4月14日(金曜日)

 ディープラーニング(Deep Learning)の急速な進化とともに、インドでは人工知能(AI)が農家の救世主となりつつある。

 インドでは毎年、数千人の農民が飢饉で命を失っているという。インド現地の農家は銀行、金融業者などからお金を借りて一年間の農業を営むのだが、飢饉になると返済が滞るため経済的な窮地に追い込まれる。異常気象などにより深刻な干ばつが数年続くと、事態はさらに悪化。農家の足元を見る高利貸しが増加し、追い込まれた人々が自殺するという悪循環が、社会的問題としてまん延していた。

 インドのAIスタートアップ・ファームガイド(farm guide)は、そのような実情を把握。問題を解決するため、ディープラーニングを基盤にしたソリューションを開発した。

 ファームガイドが提供するソリューションは、農耕地を撮影した衛星写真を画像解析技術で分類し、農家が保有しているセクターで生産可能な作物を予想。情報を提供する。米スタンフォード大の研究者らによれば、米国農務省(USDA)が手作業で行う調査(physical surveys)より、衛星データを活用したマシンラーニングソリューションの方が、作物の収穫量をより正確に分析することができるという。

 ファームガイドが提供するのはそれだけではない。彼らは農家が低金利でお金を借りられる優れたローン、飢饉に被害をカバーしてくれる保険モデルなども作った。それらは、農場規模に応じた供給量、天候、害虫などマクロ変数を採用したマシンラーニング技術があればこそ可能となったと言われている。

 現在、世界各地では人工知能を公共の利益や、人道的な目的で開発しなければならないという声が日毎に高まっている。「人工知能が人間の仕事を奪う」といったようなネガティブな議論が根強いなか、AIの力を人々のために使うべきという意見も徐々に増えているようだ。

 ビジネス用SNS・リンクドインの創業者リード・ギャレット・ホフマン(Reid Garrett Hoffman)、eBayの創業者ピエール・オミダイア(Pierre Omidyar)らが運営する「オミダイアネットワーク」、ウィリアム・&フローラヒューレット財団などが、公共の利益を研究するために設立した「人工知能の倫理・ガバナンスのファンド(the Ethics and Governance of Artificial Intelligence Fund)」も、人間を助けるAIの開発を目的としている。

 同ファンドは、人工知能が受けている社会的・技術的偏見を克服し、人間主義、社会科学、コンピューティング分野間の祖語を解消するため、関連研究機関を支援する計画だとしている。

 一方で日本政府もまた、「第4次産業革命」の基盤技術である人工知能(AI)やIoT、ビッグデータ、ロボットを農業分野で活用することで、「スマート農業」の実現を加速させ、生産現場のみならずサプライチェーン全体のイノベーションを通じた新たな価値を創出しようと注力している。

 ロボット化・自動化されたスマート農業の目的は、農機の自動走行技術による大幅なコスト削減と安全な作業環境の実現、また収穫作業など人手に頼っていた作業の自動化、農業就業者の減少・人手不足の解消だ。また、ビッグデータ解析に基づく最適な栽培管理や、自然災害予測による被害の軽減などが、農業の生産性向上が期待されている。スマート農業が拡大すれば、中・低熟練の雇用は大幅に減少する反面、農業経営者、システム開発者及び情報分析専門家の雇用は増加する見込みだ。 農村観光、流通、サービスなどの新規雇用創出も可能だといえる。

 スマート農業を普及させるためには、定期的に作物別、畜種別、生産・流通・消費など、段階別政策と経営成果、制度改善などの現場調査が必至であると言える。今や女性の社会進出や単身・高齢者世帯の増加によって、ライフスタイルや社会構造そのものが急激な変化を遂げ、食生活も大きく変化した。消費者の食との関わり方が多様化する中で、スマート農業の活性化戦略に注目が高まる。

photo by farm guide