「2020年、人工知能の偽モノのコンテンツ制作する能力は、人工知能がそれを見抜く能力を凌駕しデジタルへの不信を助長するだろう」
IT市場調査企業・ガートナーは10月上旬、米フロリダ州オーランドで開催されたシンポジウムで「2018年以降に注目すべき10大デジタル主要展望」を発表した。ガートナーの最高研究責任者ダリル・プラマー総括副社長は「技術に基づいた革新は大多数の企業が追いつくことができないほど急速に到来している。ひとつの革新が実現する前に、新しい技術ふたつが登場する」と指摘した。
発表された主要展望のうち、いくつか重要なテーマがあった。まず、2020年に人工知能が作った「偽造現実」またはフェイクコンテンツが配布されるだろうと予測したのだ。過去30年間に、コンテンツ配布の統制が微々たる水準にとどまったのに対し、多くの人々がインターネットを利用して改変したコンテンツを配布するボリュームが増えた。次のステップは、機械がその役割を果たすというものだ。
プラマー副社長は「フェイクコンテンツを人間よりも速く識別し、追跡することができる人工知能が偽造現実を最もよく見破る。しかし、残念ながら、最近ではAIを活用した偽コンテンツの制作が加速しており、人工知能を活用した偽コンテンツの把握が相対的に遅れているのが実情だ」と語った。そして2022年になれば、人々が実際の情報よりも多くの虚偽情報を消費するかもしれないと警告した。
本サイトでは、過去にも「AI利用したフェイク映像実験」や、動画に映る人物を入れ替える「CycleGAN」という技術を紹介したが、今後、AIによるフェイクコンテンツの流通が増えていくのだろうか。
一方で、ガートナーの10大デジタル主要展望では、明るい予測もあった。レポートによれば、2020年に人工知能が180万人の雇用を消失させるが、新たに230万人の雇用を創出すると予想しているのだ。人工知能により創出された雇用が、消える仕事を十分に補うというものだ。もちろん、AI時代における雇用増減は、産業分野に応じて千差万別だ。ガートナーは、ヘルスケアや教育分野においては、雇用の減少が全く起こらないだろうと予想している。
さらに2020年末には、ブロックチェーンベースの仮想通貨が10億ドルの事業価値を創出するともガートナーは予想している。現在、全世界的に流通している仮想通貨の価値は合計で155億ドルあまりであり、市場の関心は徐々に増加している。ガートナーは、「すべての業界が財とサービスの価格、会計方式、支払いシステム、リスク管理など、現存の通貨ベースのビジネスモデルの“在庫”を使用して、新しい形の価値を収容しなければならない」と助言した。
身近な話題では、2021年に視覚・音声検索をサポートしたWebサイトを再設計する企業が成功するという見通しも発表された。視覚・音声検索に基づいた消費者の問い合わせは、企業に顧客の興味や意図をよりよく理解できるようにする。すでに米国のオンライン商取引企業アマゾンは、消費者の家に置かれたAIスピーカー「アマゾン・エコー」を通じて、多くのデータをため込んでいる。ガートナーは、アマゾン・エコー、GoogleホームのようなAIスピーカーに対する顧客の需要が、2021年までに35億ドルに達するビジネスを創出する可能性があると期待している。結果、企業は従来のモバイルアプリケーションよりも、人間とのコミュニケーションが可能な「チャットボット」の開発に、より多く投資するだろうとも見通した。
Photo by Gartner