柔らかい素材でつくられたソフトロボットの研究・開発が活発になるにつれ、「自己修復」、もしくは「自己復元」する素材の研究にも注目が集まっている。というのも、ソフトロボットは柔軟かつ滑らかなボディーを持つが、熱や圧力によって変形しやく、もともと持っている形状や特徴を失いやすいという課題がある。そのため、自己修復する素材の開発、そしてそれらをロボット工学に取り入れる動きが重要になるとされている。
自己修復する素材は非常に便利であり、ロボットビジネスの成否を分かつ重要なファクターになりうる。今後、サービスロボットなどが社会の各領域に普及していくと予想されているが、数が増えれば当然、ロボットのメンテナンスや管理が大きな課題となる。メーカーやロボットを導入する企業の立場からすれば、問題が生じた際に部品を交換・修理することが増えることすなわち「運用コスト増加」につながる。一方、ロボットの小さな傷や問題が自己修復されるならば、その問題を避けることができるようになるかもしれない。
市場調査会社マーケット&マーケットは、自己修復する材料の世界市場規模が、2021年までに24億4700万ドルに達すると予想している。なお、それらの素材はロボットだけではなく、医療、宇宙、繊維、通信機器などさまざまな分野において活用が期待されている。それでは、世界ではどのような研究の動きがあるのだろうか。
例えばブリュッセル自由大学の研究チームは、自己治癒能力とソフトロボットの融合という目標を掲げ関連素材を開発。合成ゴムでソフトロボットをつくり、それを損傷・回復させる実験を行っている。そしてロボットアーム、人工筋肉などを対象に行なった同実験では、形のみならず機能まで完全に自己回復させることに成功している。
同実験で回復に使われた方法は熱だ。まず80°Cで加熱(40分間)すると、破損したロボットの傷が回復。その後25°Cで冷却(24時間)すると、破損したロボットの強度および柔軟性が回復したという。
研究チーム関係者は「熱を加えることで、ポリマー材料により多くの移動性を付与することが可能となり、分子が破損している隙間を埋めることができた(中略)治癒が完了した後に材料を冷却することで、初期特性がほぼ完全に回復した」と説明している。同研究は、「サイエンス・ロボットティクス・ジャーナル」に掲載されており、欧州研究委員会(European Research Council)の後援も受けている。
今年初めには、コロラド大学らの共同研究チームも、自ら治癒する物質の開発に成功。結果を「アドバンスドマテリアルズ」に掲載した。研究者らは、マーベルコミックスの人気キャラクター「ウルヴァリン」からインスピレーションを受けたと公言している。「合成イオン伝導体」と命名されたその物質は、元の長さの50倍まで伸びる弾性があり、破れても24時間以内に室温で完全治癒するそうだ。当初、電気自動車のリチウムイオン電池を念頭に置いて開発されたが、ロボットの自己治癒能力にも適用できると期待されている。
また昨年には、スイス連邦工科大学が自己修復可能な食用ロボットを、またスタンフォード大学が自己修復機能のある人工筋肉を開発した。その他にも、ペンシルバニア大学の研究者らが、イカの吸盤からインスピレーションを得て、自己治療可能なプラスチックを開発している。イカの吸盤についている「リング・ティース(ring teeth)」は、損傷しても水に浸すと自己修復する特性がある。研究チームは、損傷したリング・ティースを修復する遺伝子コードを解明することに成功したのに続き、それを利用し、弾性がある治療用プラスチックを生み出した。実験では、ひとつのプラスチックを半分に切断した状態で水を一滴落とした後、45°Cで放置。するとふたたびひとつに復元し、耐久性も切断前と同じ状態にまで回復したという。
ソフトロボットと自己回復する素材はどんなイノベーションを起こしていくのか。各研究の今後が気になってくる。
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